教授
「何...、ここ?」
海に面した崖に点在する廃墟...。
西洋風の白い建物は欧州の港町の建物によく似てはいるが、町と呼ぶには微妙な集落であり村としても既に機能してないと言える。
「移住したはずの西洋人が使ってた集落跡だ。」
明の疑問には出来るだけ業平が答えようと思い持って来た島の資料を見ながら説明する。
「移住したはず?」
「こんな島だ。ホテル経営もレストランも上手くは行かずに移住者はすぐに撤退、二束三文で先住民に譲り渡してる事になってる。」
「そもそも、先住民は何故、居留地へ?」
「先住民は自給自足、ほとんどが漁師で捕鯨文化があったらしい。」
「今は捕鯨禁止の時代...。」
「ああ、船も海岸線の居住地も取り上げられて居留地へと押し込められた。」
「それが近年では島を開発した西洋人が出て行き、島は再び先住民の物に...。でも、捕鯨とか自給自足を止めたのに、赤字のホテルやレストランでも先住民はちゃんと暮らせるの?」
2日に一度だけやって来るフェリーには先住民の生活物資が積まれてると言っていた。
観光客はほとんど居ない。
先住民はどうやって生活を維持してる?
明の疑問に業平が答える前に忠が比較的、小綺麗にされている建物を指差す。
「あれが貴一郎の家みたいだ。」
白く小さな家。
庭は広く、畑がある。
海も近い。
森下もある意味では、ネットもテレビもない島で自給自足の生活をしてるように見える。
どうせ、誰も来ない廃墟町だからと適当に車が停り、忠が白い家の扉を叩く。
「貴一郎...。居るか?」
しばらくして扉が開く。
「忠、わざわざ来てくれたのか?」
忠と同級生と言うが、忠よりも老けた感じがする男が森下だった。
顔は日焼けで浅黒いが、忠よりもシワが深く髪や眉毛が随分と長くなっており、ヤツれている。
「手紙を書くより来た方が早く着く。」
「それでも、こんな島まで...、大変だったろう?」
「お国じゃ連休だから孫娘との気ままな旅行がてらに寄っただけさ。」
「ああ、忠の嫁さんは凄い名家のお嬢様だったな。お孫さんも随分と綺麗なお嬢様だ。」
「孫娘の明だ。こっちは明の許嫁の業平君。彼は公務員だから貴一郎の力になれると思う。」
「それは助かるよ。」
疲れた老人がホッと胸を撫で下ろす。
「散らかってるが入ってくれ。」
悠一達は別行動にしてる。
今は廃墟のあちらこちらで鬼の気配を探ってるはず。
森下が言うように家の中は本当に散らかってる。
「これは...。」
忠が眉を顰める。
倒された本棚や壊された机の引き出し、机の上や床には無造作に書類がばら撒かれている。
「ふた月ほど前、本島から来たという刑事が散らかしてくれてね。研究用のパソコンまで持って行かれたよ。」
ガックリと項垂れた森下が椅子に座る。
明達も話を聞く為に森下を囲むようにして椅子を並べて座った。
キッチンや生活スペースは片付いているから、森下は綺麗好きな方だとわかる。
なのに、研究をしてるという書斎兼リビングだけは散らかったままだ。
「キッチンを借りるよ。」
忠が持って来た自分のコーヒーを森下に入れたいと言い、話は業平が進める事となった。
「何があったのですか?」
業平の言葉に森下の表情が曇る。
「わからない。佐久間君が私に会いに来たはずだと何度も刑事に聞かれた。それから私の研究内容が普通じゃないと責められて、色々と部屋の中を物色されて資料やパソコンを取り上げられたんだ。私には何が何やら...。」
かなり動揺してる。
忠のコーヒーが入るまでは、こんな調子が続くだろうと明は長丁場になる覚悟を決めた。




