裏
「シャワーを覗かないと約束が出来るなら、私は業平と同じベッドでもいいわよ。」
業平の耳元に息を吹き掛けるようにし向けた明が意地悪な笑みを浮かべて業平を挑発する。
今は仲良くリビングのソファーで2人並んで座ってるが、どちらが一つしかないベッドを使うかで揉めていたところだ。
「お前、自分が言ってる意味をわかってるのか?」
業平からすれば、そういうのは男に対して生殺しだと言いたいが、そこは明もよくわかってない部分であり
「飛行機じゃ私と一緒に寝ようとしたじゃない。」
と言い返して来る。
ここは業平が大人として一歩引くしかない状況。
「わかった。明の好きにしろ。」
明の頭をよしよしと撫でれば、また子供扱いだと明が頬を膨らませる。
業平は業平で疲れてる。
明達とは別行動で陰陽局の人間は島のあちらこちらで結界を張り巡らせて探りを入れたが、その全てが空振りで鬼のおの字も見当たらないという体たらく。
「ねぇ...、なり...。」
ベッドの中で明が業平に擦り寄って来る。
「ん?」
「明日は...、森下教授に一緒に会いに行くよね?」
会話の内容はともかく、明の声が熱っぽい。
(誘ってるのか?)
「そのつもりだよ。」
明の手を握り、その指先に口付けをする。
「そう...。」
消え入りそうな声...。
「明...。」
明の顎を引き寄せて、今度こそは自分から口付けを交わそうと業平が明に被さった。
「明?」
業平の問いかけにスースーと明の寝息が返って来る。
いつもの事だが、ガッカリする。
(俺...、ちゃんと眠れるのか?)
明の小さな手を握りながら羊を数える業平だった。
翌日は忠と明、業平が園田兄の車に乗り、山崎がホテルから借りたジープに由利香と悠一を乗せて森下の家に向かう事にする。
「何故、私が貴方達となのです?」
業平と別の車になった由利香が文句を言う。
「本当ならお姉さんはお留守番。勝手について来たんだから文句言わないの。ストレスはお乳によくないよ。」
山崎がハンドルを握る手をワキワキとするから由利香は胸を両手で押さえて山崎から守ろうとする。
会うなり、森下を斬りそうな勢いの由利香だから連れて行きたくはないのだが、自分は業平の秘書であると主張し無理矢理について来た。
「あの女...、大丈夫?」
後ろについて来るジープをチラ見する明が不安そうな顔をする。
「古澤さんと山崎が居るから大丈夫だろ。」
空港での一件以来、由利香は山崎を苦手にしてる。
一応、業平について来る条件として森下は斬るなと命令はしてある。
むしろ、業平が心配なのは明だ。
この中で鬼に狙われるなら真っ先に明が狙われる。
しかも、明なら自分からホイホイと鬼について行く。
「明は出来るだけ目立たないようにしろ。」
隣に座る明の手を握って命令する。
「はぁ?目立つなとかなんなの?この島にはお爺さまのお友達に会いに来たのよ。仕事で来てる業平にとやかく言われる覚えはないし。」
「だから、その仕事に明は首を突っ込むなって...。」
「だったら、業平もあの女とホテルで留守番してればいいじゃない。」
「明...。」
「フンッ...。」
2人の会話にやれやれと肩を竦めるのは、運転席と助手席に並ぶ忠と園田兄だ。
森下の住む場所へ行くには居留地に向かう道とは完全に反対側へ走る事になり、広いジャングルを抜けると白い砂浜が広がる遠浅の海ではなく、断崖絶壁の岩場で出来た海岸線と景色が変わる。
「海が違う。」
明が違う島へ来たみたいだと言うと
「島の反対側の海は海流が変わるんだよ。」
と忠が答える。
狭く小さな島なのに、楽園と呼ばれるのは表だけ...。
裏は汚い現実があるのだろうと明が固く口を結んで静かになった。




