バーテンダー
「それで、次はどちらに行きますか?お嬢様。」
カップドリンクのストローを齧りながら山崎が明に嫌味を垂れる。
狭い島…。
智恵美の足取りなんかほとんどない。
智恵美の島での滞在予定は2泊だけ…。
明達と同じフェリーで島へ到着し、海岸の上に張り巡らされた安物のコテージに荷物を置き、友人である近田 愛と散歩に出た。
まずは、真っ白な砂浜がある海岸…。
ただし、遊泳やマリンスポーツは一切禁止。
明達が泊まる様な高級ホテルのコテージにわざわざプールが付いてるのは、そういう理由からだ。
海岸の途中から、一応は舗装されている道路へと出れば、レストラン兼BARだとか、理髪店、雑貨屋、食料品店がチラホラと30軒ほどが建ち並ぶ通りがあるが、5分も歩けばウィンドウショッピングが終わってしまうレベル。
年頃の女の子が行くところなど存在しない島だと思い知らされた明と悠一と山崎...。
一応は観光客らしく、白いキャミワンピースに着替えた明とパナマ帽を頭に乗せた悠一に対して、いつもと変わり映えしないのは山崎だ。
今は海岸の端にある小さなカウンターBARで悠一がビールを買い、明と山崎はトロピカルフルーツで作られたフレッシュジュースを飲んでいる。
「智恵美の友人の話だと、この後、智恵美と先住民の居留地に行ってコテージに戻り、早めに寝た。そして朝起きると智恵美だけが消えていた。」
「森下教授には会いに行かなかったの?」
「居留地でガイドしてる人に『とにかく会わせてくれ。』って頼み込んでたらしい。それが誰かはわかんないけど、島での知り合いは森下教授だけだから、森下教授の事だろうと局が判断したんだと…。」
山崎とそんな会話をする。
悠一はカウンターの中に居るバーテンダーモドキの男と話をしてる。
サーバーからグラスにビールを注いでいる以上は、一応はバーテンダーなのだろうが、悠一と同じように自分もビールを飲み、Tシャツに短パンという出で立ちでは勝手にカウンターに潜り込んだ観光客にも見える。
「あの人、バーテンダーと話せるんだ。」
明が少し感心する。
バーテンダーが使う言葉は欧州のものだ。
「古澤さん?あの人、現地で言語を聞けば大体は話せるとか言ってたよ。」
「嘘っ!?」
「俺も少しは出来るよ。」
「フーン...、じゃ、あの人がバーテンダーと話してる内容を訳してよ。」
「えー?面倒だなぁ...。後で本人から聞けばいいじゃん。」
悠一から話を聞く方が明にはすこぶる面倒である。
『可愛い子だね。』
『そうでしょー、うちの可愛い娘。』
『へー、娘さん。なら奥さんがべっぴんさんなんだな。一緒に居るのは息子かい?』
『あれはガイド。娘が人見知りするんで静かな旅行を希望したら、この島に案内されてね。』
『そりゃ、ひでーガイドだ。こんな島、年頃の女の子が来るようなところじゃねぇよ。』
『でも、意外と観光客に若い女の子が居るって聞いたよ。割と立派なホテルもあるし...。』
『ホテルはもっぱら新婚さん用だ。この島なら、まさに2人だけの世界になれるからな。ハネムーンベイビーを作りに来てるんだよ。それ以外で、海岸沿いにあるコテージに来るような若い女なら、きっと先住民の居留地が目当てだよ。』
『若い子が居留地に?』
『ああ、10数年前に島に戻って来た宗教的指導者の予言がすげー当たるって評判なんだ。先代の指導者が亡くなって帰って来たらしいが、そいつ目当ての観光客が年々増えてるって話だ。』
『そりゃ、凄い話だなぁ。』
『占いとか全部当たるってさ。娘さんなら、そういうの好きなんじゃないか?』
『いや、うちの娘は人見知りだから、どうだろう?』
という感じで淡々と山崎が訳してく。
なるほど...。
だから業平と明の部屋がハネムーンスィートだったのかと妙な納得を明がする。
「居留地、行ってみる?」
山崎が小声で聞いて来る。
「そうだね。一応は探ってみよう。」
グダグダとビールを飲み続ける悠一を残して山崎と2人で居留地へ向かう事にした。




