天狗の正体
「明~、見て見て~。」
草木や泥を顔や身体中に付けてドロドロに汚れた悠一が背中に背負ったものを明に見せようとする。
ボンネットに飛び降りて来た鳥男は悠一だ。
業平は思わず中指と人差し指を立てて、邪気祓いの印を結ばうとする。
その指を握って
「業平...、落ち着いて...。」
と自分の父親を祓おうとする業平を止める。
車から降りて悠一の背中にある物を見る。
縦横斜めとロープで適当に雁字搦めにされている物体は大きな翼だけを広げて
「グェー!」
と苦しそうに鳴く。
「もう~、麓に降りるならともかく、山頂に向かって全力で走るとか...、古澤さん、有り得ないよ~。」
ぜーぜーと息を切らした山崎も車の前へと現れた。
「どういう事だ?」
事の収拾を求める業平が明を見る。
「ハシビロコウだよ。」
目頭を軽く押さえて頭が痛いとパフォーマンスを見せながら明は質問に答える。
「いや、ハシビロコウはわかってる。なんで、そのハシビロコウが、こんな山に居るんだよ!」
パニック気味に業平が叫ぶ。
大きな嘴...。
黒と言うよりも青みがかったグレーの羽根。
翼の先端だけは微妙に黒い。
世界一動かない鳥…。
これが北山の天狗の正体だ。
「なんでハシビロコウが北山に居るかまでは私だって知らないわよ。そもそも野生のハシビロコウの生息地は地球の裏側なんだし...。」
「でも、明なら始めっから今回の天狗の噂が妖関連じゃないって事はわかってたんだろ?」
馬鹿を見たのは陰陽局だけだと業平が少しずついじけた態度で明に迫る。
「まぁ、妖の気配とか異能の気配が全くなかったからねぇ...、だとすれば、古都には存在しない野生動物が密輸されたと思うのが基本じゃない?」
しれっと業平達、陰陽局の人間がお馬鹿なだけだと明が追い討ちをかける。
「銃を持った兵隊の噂もあったじゃん?あれって密猟者のグループでしょ。」
北山の向こう側は海...。
過疎が進む港町は密輸には打って付けである。
上手く国内に持ち込んだところでハシビロコウに逃げられた密猟者が毎夜毎夜、夜行性の鳥を追い掛け回してただけだ。
「その密猟者っぽい連中なら古澤さんが捕まえたから、適当な木にロープで吊るしてあるよ。」
山崎の説明に褒めて褒めてと悠一が明の足元へ擦り寄って来る。
「よしよ~し...、よくやったねー。その背中のハシビロコウも下ろしてあげなさいねー。」
棒読みで悠一を褒める明は、さながら大型犬の調教師のようだ。
「とにかく、警察に連絡して、ハシビロコウと密猟者の回収をしてもらえば?」
ひとまずは解決だと業平に助言する。
ロープが絡まったハシビロコウはかなりボロボロになっており、既に鳴く力も残ってない。
「これ...、大丈夫なのか?」
「国際問題になるようなら、馬鹿親父とその助手を突き出すしかないよ。」
自分の父親よりも絶滅危惧種の方が大切だと明は言う。
「警察を呼ぶ前に、結界の解呪が必要だぞ。」
業平が悠一を睨む。
「私がやるから...。」
と明が指を2本立てて印を踏もうとすれば
「こんなのすぐに解けるよ。」
と山崎が明の前で小石を拾う。
「ちゃんと見ててね。明ちゃん♡」
意味深な笑みを浮かべた山崎が小石を空に向かって軽く放り投げると、小石は空へ吸い込まれるように一瞬で舞い上がる。
パンッ!
とシャボン玉が割れたような光が北山全体に広がった。
「山崎君、お見事~。」
ニヤニヤする悠一が山崎を褒める。
本当に何者なの?
山崎に対する疑問が、ますます深くなる明だった。




