依頼人
「中根 遥と言います。」
悠一の隣に座る小柄な少女は明がテーブルにつくなり自己紹介をする。
今年から古都にある女子大の1回生になるらしい。
地味な服…。
顔立ちも明に比べれば、かなり地味だ。
大人びた明が自分と変わらない年齢だと感じても仕方がないと思う。
そんな何処にでも居る普通の女の子が、麗らかと言える春の日に青ざめた顔で中年垂れ目の優男と古めかしい喫茶店に来るとか、自分ならお断りだと明は考える。
「なぁ…。」
明が悠一に顎しゃくる。
遥の肩からモヤモヤと上がる微妙な空気が気になる。
明には見える。
これは瘴気。
悪い気は、更なる悪気を呼び寄せる。
悠一には見えてない。
それでも悠一は祓う事が出来る人だ。
「大丈夫…。うちの娘の明なら、きっと君の力になってくれるよ。」
遥を慰めるフリをして、悠一が彼女の背中を2回、トントンと軽く叩く。
祓いの念を彼女の中へ押し込める事で悪い気を祓う。
悠一の慰めが効いたのか、少しだけ楽な表情へと変化した遥が改めて明を見た。
「友達が…、友達が消えたんです。」
震えた声で遥が言う。
遥の説明を聞きながら明の頭の中では、様々な情報が選り分けられる。
妖を祓う陰陽師…。
実際は妖など、ほとんど存在しない。
普通の人に見えたり感じたり出来る物は、間違いなく妖ではないと断言出来る。
それでも人は妖を恐怖の対象として捉える。
その恐怖が悪い気を引き寄せる。
悪い気は更なる悪気を呼び寄せ、人は悪霊に取り憑かれたと騒ぎ立てる。
遥もその類だ。
悠一は、そんな人々の気を楽にするために
『陰陽師探偵』
と名乗ってる詐欺師のような存在。
それ故に、明は悠一と距離を置く。
(こんな奴と同じ陰陽師を名乗りたくない。)
悪気すら見えない悠一を冷めきった目で眺めるが、当の悠一は娘が自分を見てくれると思うだけで嬉々として頬を紅く染める。
「優花は…、優花は無事なのでしょうか…。」
半泣きの遥が声を高くする。
「落ち着いて…。」
柔らかな声で悠一が遥を宥め直す。
興奮して嫌な事を考えれば、せっかく祓った悪気を呼び戻すだけだ。
悪気を祓い、人々の気を楽に出来る人間が陰陽師としては優秀だと言える。
そういう意味では悠一は優秀とも言えるが、詐欺まがいの案件でも気にしない悠一が嫌いだ。
遥が落ち着きを取り戻した頃…。
「まずは、お友達の優花ちゃんを最後に見たという場所へと行ってみようか…。」
ニタリと悠一が笑った。
(しまった!)
明はのんびりと祖父の入れたコーヒーを味わっていた自分自身に後悔する。
これで楽しいはずの休日を面倒な悠一と過ごす事が決定してしまう。
(やられた…。)
もし、この件が無事に解決したら、春の新作のブランド財布を悠一に買わせてやると明は決心した。