鳥男見参!
「大丈夫か...。明...。」
不安そうな業平が聞いて来るが、業平の方がかなり顔色が悪く具合が悪そうだ。
時刻はそろそろ丑三つ時という深夜。
明と業平は2人で北山の山頂にある森林公園の駐車場に停めた車の中に居る。
悠一が張ったという完全結界を解除する為だ。
結界にも色々あり、妖だけを封じ込めるものもあれば、逆に妖を弾く為の結界もある。
今回、悠一が作り出した結界は、一般人なら北山に行くのはなんとなく止めようと思わせるレベルで済むが、何らかの霊力や異能を持つ者は北山から無理矢理に締め出されるという実に傍迷惑な代物だ。
そんな結界内で自分用の結界を張り直して北山へと乗り込んだ業平だが、悠一の結界の効力が強く
「ウップ...。」
と船酔いしたような顔をしてる。
例の天狗騒ぎで陰陽局が乗り出したのは事実らしい。
しかし、未だ、天狗の正体が掴めぬまま、いきなり悠一に締め出される事になった。
(そりゃ、今回の天狗に陰陽局なんか派遣しても全く当てにならないわよ。)
呆れた顔をする明に
「今回の天狗...、一体、何なんだよ?」
と業平が聞いて来る。
既に、陰陽局の術者達が北山全体に結界を張り、妖なら引っ掛かるように罠を張った状態である。
なのに天狗らしきものは捕まらず、後から来た悠一に北山から締め出されてしまった以上、陰陽局の面子は丸潰れというのが今の状況になる。
陰陽局の面子はどうでもよいが、悠一を捕獲して結界を解かねば、明もゆっくりと休めない。
明だけは悠一の結界に影響を受けない。
多分、母である明菜も同じ条件だろう。
外敵から守る為の結界は、外からでは解術しにくいが中からなら簡単に壊せる。
その為に結界の影響を受けない明がわざわざ北山までやって来たという訳だ。
もう桜は散ってる。
その代わりに山頂の駐車場からは古都の街が一望出来る為に、それなりに綺麗な夜景が見える。
いつもなら、この夜景を見ようとカップルを乗せた車がチラホラと出没する駐車場。
今夜は悠一の結界のお陰で明と業平の2人きり...。
「ねぇ、本当に大丈夫。」
運転席でグッタリとする業平に近付く。
形の良い額にかかる髪を除けるように指先を這わせる明が業平に顔を寄せる。
業平が固まってる。
奥手にもほどがあると常々、明は思う。
明の方から迫る勢いが必要なのか?
明だって奥手なのには変わりない。
「ねぇ、なんか...、久しぶりだね。」
照れた笑いを明が見せる。
1週間ぶりの業平。
少しやつれた色男からは熟れいた色気が漂ってる。
髪を除けた明の指先は、そのまま、こめかみを伝い頬へと下りて来る。
「明...。」
指先が業平から離れる前に業平の手が明の手を掴んで引き寄せる。
俺の方が...。
男である以上、明をリードするのは自分でなければならないと業平が息を吸って気持ちを固める。
時が止まるような気がした。
お互いの顔が自然と引き寄せられる。
後3cm、いや後3秒もあれば、明と業平も互いの事だけを考える仲になっていたはず...。
ドンッ!
という、とんでもない音と同時に衝撃が業平の車へと襲いかかる。
「「...っ!?」」
フロントガラスを見た業平と明が驚愕する。
背中に黒く大きな翼を生やした鳥男が、車のボンネットの上へと着地するなりフロントガラスに向かって張り付いて来たのだった。




