古典教員
「は~い、安倍さん、いくら先生が男前でも、先生から目を逸らすのは止めよ~ねぇ。」
教壇に立つ教員のくだらない冗談で教室にいた生徒がクスクスと笑い出す。
朝から、やる気のない明に更なる追い討ちをかけたのは2限目の古典の教員だ。
まだ20代前半の男性教員…。
老人かお局教員ばかりの中での唯一の若い男性教員となれば、男に免疫のないお嬢様達がうっすらと頬を染め、ほぅっと小さな吐息を漏らす。
だが、この馬鹿っぽい教員のくだらない冗談に巻き込まれた明は違う。
(何故、お前がここに居る!)
と若い男性教員を睨みつける。
教員は、明の父親である古澤 悠一の助手であるはずの山崎 浩司だ。
先週の始業式で
『古典の荒木先生が産休に入ったため、今学期から臨時教員の先生が来てくれます。』
との説明の後、現れたのが山崎だ。
『なんで、アンタがうちの学校に居るのよ?』
『昨日の始業式で主任教員が説明したじゃん。』
『そうじゃなくて、アンタはあのダメ親父のお目付け役なんでしょ!?』
『古澤さん、まず朝は起きないし、週に2日くらいなら俺が居なくても大丈夫。それに古澤さんの仕事なんか全くないし…。今日だって、やる事と言えば明ちゃんに会いに行く事だけなんだよ~。』
学校帰りに現れた悠一を連れて、老人警備員が住み着く廃工場に来た時も、そんな風に山崎は開き直った。
家に帰り、許嫁である葛木 業平にも
『ちょっと、陰陽局はまともなお目付け役すら付ける事が出来ないの?』
と嫌味を言ってみたが
『お目付け役?なんだそれ?』
ととぼけられる。
『ダメ親父に付けた助手って男の話よ。』
『おっ!?男!?誰だよ?それ?どんな男だ?明はもう会ったのか?』
明の予想を裏切り、業平は慌てるだけで山崎についての情報を一切知らない感じだった。
その後、業平と今年最後の花見だと、北山の森林公園があるスカイラインをドライブした時に、悠一を乗せた車を運転する山崎が、ずっと明達の後ろに付き纏い
『あれが山崎って男か?』
と業平を不機嫌にさせただけだった。
その謎過ぎる山崎が、いけしゃあしゃあと明のクラスの教壇に立っている。
(何者なの?)
悠一は知り合いに頼まれたと言っていた。
その言葉を鵜呑みにして陰陽の関係者だとばかり思っていたが、陰陽とは全く関係ない人間の可能性もある。
迂闊に山崎に陰陽関連の姿を見せるべきではないかもしれない。
明が見る限り、意外と山崎はまともな授業をしてる。
一般人なのだとすれば、あまり関わらない方が良い。
そう決心する明の気持ちを土足で踏みにじって来る山崎は
「今日の授業はここまで、あぁ、安倍さん。担任の山口先生が教員室に来るように言ってたから、今から一緒に行こうか。」
と平気な顔で明に近付いて来る。
「なんで、アンタと一緒に行く必要があるのよ!」
山崎と廊下を歩きながら小声で文句を言う。
「だって、俺も同じ教員室に戻るから…。それに明ちゃん、学校じゃ病弱なフリしてんでしょ?病弱な生徒を気遣う先生ってポイント高そーじゃん。」
山崎の言葉にドキリとさせられる。
病弱という設定は陰陽関連が原因だ。
(どこまで私の事を知ってるの?)
警戒する仔猫のように爪を立て、毛を逆立てる明は教員室までの道のりを無言のまま山崎と二人で歩いた。




