ニット帽子と階段くらいじゃ……
俺は、推理小説作家をしている。
作家というのは、あくまで俺の場合だけど、夢見がちなのかなんなのか、小説が書ける分、現実の雑時が、苦手だったりする。
だから、現実の雑事を引き受けてくれる、リアリストの妻には、感謝している。
その日も、俺は、推理小説を書いていた。
「あなたー。編集者の田中さんから、お電話よ」
妻の呼ぶ声が、聞こえる。
「わかった」
俺は、席をはずし、電話のある居間に行く。
(ふー、原稿の催促だったか……。遅れがちなのは、わかってるんだけど……)
電話し終わり、そう思いながら、仕事部屋に戻ると、妻が、パソコンの前に座り、俺の書き途中の、小説を読んでいる。
「何、読んでんだ!」
「ねぇ、あなた。ここの部分、ダメじゃない?ニット帽子かぶった人を、石で殴ったくらいじゃ、死なないわよ。せめて、麦わら帽子じゃないと……」
「バカか、おまえは!冬の殺人事件の話なんだぞ!なんで、麦わら帽子、かぶせんだ!おかしいだろ!」
「でもぉ……」
「ほら、あっち、行った行った!」
俺は、妻を、仕事部屋から追い出した。
(季節を夏に変えたら、全部、書き直しになるだろが!)
俺は、妻に言われた事の、ムカつきから、作中人物で、あまり好きじゃなかったヤツを、犯人に余分に殺させた。
しばらくして、トイレに行きたくなったので、席をはずした。
トイレから、仕事部屋に戻ると、また妻が、パソコンの前に座り、小説を読んでいる!
「何、読んでんだ!」
「ねぇ、あなた。ここの部分、ダメじゃない?階段から突き落としたくらいじゃ、人は死なないわよ。せめて、崖じゃないと……」
「バカか、おまえは!都会での殺人事件の話なんだぞ!どこに崖があるって言うんだ!」
「でもぉ……」
「ほら、あっち行った行った!」
俺は、妻を、仕事部屋から追い出した。
(舞台を田舎に変えたら、全部、書き直しになるだろが!)
俺は、妻に言われた事の、ムカつきから、また、作中人物で、あまり好きじゃなかったヤツを、犯人に余分に殺させた。
(あああ……、犯人に殺させすぎて、訳がわからなくなった……。また、全部、書き直しだ……)
俺は、頭をかかえる。
現実の雑事を引き受けてくれる、リアリストの妻には、感謝している。
……が、困る時もある……。
眼精疲労と生活も、どこへやら……という感じですね^_^;)
活動報告、読んでくれて、コメントくれた方、心配してくださった方、お騒がせしましたm(_ _)mありがとうございますm(_ _)m目は、少しですが治ってきました(^^)
お読みくださり、ありがとうございました。