成金お嬢様、災害を未然に防ぐ(前半)
ルーヴルナはこの日、ジルとモーントと共に観光地に遊びに来ていた。
しかし、いきなり地震が観光地を襲った。
建物が崩壊して、人々が犠牲になる。
最悪なことに、火災まで発生したためさらに被害が甚大だ。
そして、そんな地獄のような状況の中で。
「お嬢様…ご無事ですか…?」
「ジル!モーント!」
「元気そうですね!よかった!」
「貴方達、もういいわ!いいの!」
「いいえ、貴方は私たちが守ります」
崩れてきた建物、その瓦礫からルーヴルナを庇うジルとモーント。背中は痛い。そして重い。けれど、ルーヴルナを守れるならば耐えられる。
「お嬢様、きっとお守りしますから。良い子でいてくださいね」
「で、でも!モーントだって辛いでしょう!」
「騒ぐと疲れてしまいますよ。救助が来るまで、良い子にしていてください」
「ジル…」
二人とも、辛そうな顔で笑うくらいなら庇ってくれなくて良いのに。ああ、夢ならば覚めて欲しい。
そこで、意識が覚醒した。
「…ま、また、夢」
寝汗でぐっしょり。背中が不快だ。とりあえず、清潔なタオルで背中を拭いて別のパジャマに着替える。
「はぁ…また、なんとかしないといけませんわね」
とりあえず、あの夢は三日後のことだった。
「…観光地への小旅行は、わたくしのわがままということで取りやめにしますわ」
それが最善。…しかし。
「他の方々も、救えるのならば救いたい」
三日後、あの観光地にいる人々をどうにか助ける方法。
「…お金を積んで、観光地に住む方々をどうにかこちらに呼び寄せる…しか、思い浮かびませんわ」
来るはずの観光客も、その観光地に人がいなければ来れないだろう。だって泊まるところがないし。自動的にキャンセルになる。うん、これしか思い浮かばない。
「お金を積めばまあ迷惑がりつつも来てくれるでしょう。さて、理由付けは?」
わがまま。その一言ではさすがに無理がある。
「…そうですわ!わたくしの私有地の村!あそこに観光地の極意を教えてもらうということにしますわ!」
作戦は決めた。なので。
「明日に備えて寝ますわ。明日、観光地に連絡を取ってわがまま放題させていただきますわ」
人の命には、替えられない。わがままだと言われようと、構っていられない。結果、救えるのならばそれでいい。
「…ということで、小旅行はちょっと取りやめますわ」
「楽しみにされていたのによろしいのですか?」
「だって、気分が乗らないんですもの」
「まあ、お嬢様がそう仰るのなら」
とりあえず、小旅行はさっさと中止を告げる。そして。
「代わりに三日後、観光地に住む全ての人々をわたくしの私有地の村に招待して観光地の極意を教えていただきますわ。お金はわたくしのお小遣いから出しますから交渉をしてくださいます?」
ジルはきょとんとしたが、頷いた。主人がそうしたいならば仕方がない。ジルはルーヴルナに甘いのだ。
「ええ、わかりました。…行く予定だった観光地に住む全ての人々、ですね?」
「ええ。できるでしょう?」
「もちろんです」
まあ本来なら簡単なことではない。だが、ルーヴルナのお小遣いはちょっと常識を超えているのでごり押ししてしまえる。
「うふふ。頼りにしていますわ」
そして三日後。ルーヴルナの私有地の村に観光地に住む全ての人々を招待して、色々なことを教わった。
「この村は非常にのどかですし、都会での生活に疲れた方々をターゲットにすれば観光地化も難しくないと思います」
「なるほど!」
「おーい!大変だー!」
そこに知らせが入る。そう、観光地の村を襲った地震についてだ。
「お前さんたちの村が地震に見舞われたと連絡が入った!」
「え!?」
観光地の村を襲った地震は、他の近隣の村にはそこまで影響はなかった。が、観光地の村にはかなりの被害が出た。建物は倒壊し、家畜たちにも被害が出たのが一目でわかる。
「…というのがお前さんたちの村の状況だそうだ」
「そんな…この村にきていて、よかった…」
呆然とする観光地の村の人々。ルーヴルナのわがままのおかげで死人や怪我人はない。人がいなかったので火を使う人ももちろんいなかったので、火災も回避した。
「…でも、復興が大変だ」
「だが、今日お嬢様に招待されてここに来て、観光について教える対価としてお賃金はいただけた。しばらくは食べていけるし、復興の資金にも回せる」
「…うん、そうだな!犠牲者はいないし、資金もあるし、前向きに行こう!」
「とりあえず、しばらくは余震が心配でしょう。この村にしばらく泊まっていってください」
「かたじけない」
ということで、かくして人的被害は防ぐことができた。そして、数日経ってから人々は観光地の村に帰り復興に向けて動き出す。
そこに、ルーヴルナがさらに介入した。
「観光地の村の皆さま、この間はわたくしの私有地の村に観光の極意を教えてくださりありがとうございました!お礼として、復興をお手伝いしますわ!」
そう言ってルーヴルナは、私有地の村に住む獣人たちを集めて瓦礫の撤去などの力仕事を手伝わせる。もちろん、ルーヴルナのお小遣いから獣人たちにも充分なお給料を払ってのことだ。
「おお…!お嬢様万歳!お嬢様万歳!」
獣人のパワーは人とは比べ物にならない。復興に向けた最初の一歩はあっという間に進む。観光地の村の人々は、ルーヴルナに感謝した。
こうして、ルーヴルナはまた一つ悪夢を乗り越えた。
そんなルーヴルナの様子を見て、ジルは感動する。わがままから起こったたまたまのこととはいえ、数々の人命を救ったルーヴルナを誇らしく思う。そして、獣人を派遣して人々の復興をお手伝いするのもよく頑張っていると思う。
「お嬢様、今回もお見事です」
「ふふ、そうでしょう?」
「お嬢様は私の誇りです」
ジルが真顔でそんなことを言うから、ルーヴルナは思わず照れる。頬を染めて可愛らしい仕草でそっぽを向くルーヴルナに、ジルは微笑んだ。