成金お嬢様、訓練試合を観に行く
ルーヴルナの暮らす国では、騎士、魔法騎士、聖騎士の他に剣士、魔法剣士という職業がある。
騎士はその名の通り王族や貴族に仕える武人、魔法騎士は魔法も使う騎士、聖騎士は中央教会に仕える聖職の色の濃い騎士。
剣士は騎士とは違い、国や貴族や中央教会に仕えず庶民や商人のために働く武人。魔法剣士は魔法も使う剣士だ。
「騎士も剣士も、仕える相手が違うからか喧嘩はありませんわね」
「むしろ騎士と魔法騎士、聖騎士同士の方がライバル視し合っている印象ですね」
「剣士も魔法剣士とはバチバチにやり合ってますよね!」
「今日観に行くのは、魔法剣士たちの訓練試合だよね!」
「ええ、そうですわよ」
魔法剣士たちの訓練試合に向かう馬車の中で、ルーヴルナはジル、モーント、リムルとそんな話をする。
ルーヴルナが身に纏うのはもちろん、カサンドラがプレゼントした白いドレス。
ルーヴルナの珠のように美しい肌を引き立てるそれに、ジルは満足気だ。ルーヴルナとしては押し付けられたドレスなど不服だが、ジルが気に入っているのなら話は変わる。ジルの反応を見て、機嫌を直したのは今朝の話だ。
「でも、訓練試合ってなに?」
「まあ、観客を集めて行う試合ですわ。訓練、とわざわざ入れているのは血の気の多い彼らが殺し合いに発展しないように予防線を張っていますのよ」
「へー」
リムルは興味津々らしい。年下には甘いルーヴルナなので、観客席では綿あめでも食べさせようと考える。
ちなみに、剣士や魔法剣士にあまり興味のないルーヴルナなのでチケットを購入したわけではない。
訓練試合の主催者から、最近のルーヴルナの活躍や聖王ランスロットとのパイプを買われて特別席に招待されてしまったのだ。断ることも出来たが、その労力の方が惜しいルーヴルナは結局引き受けた。
「魔法剣士の訓練試合なんて初めて見ますわ。野蛮でないといいのですけれど」
「心配には及びません、貴族の間でも人気の見世物ですので」
見世物扱いもどうかと思うが、まあ間違いでもない。それぞれ武と魔法を極める魔法剣士たち。その訓練試合となれば、それだけ注目度も高い。
「うーん。まあ、見れば感想も変わるかもしれませんわね」
「ええ、きっと。わざわざ魔法剣士たちのポストカードやらパンフレットやらまで作って販売するくらいの気合の入れようですから」
「労力の無駄にならない程度には、人気もあるようですものね」
馬車が目的地に着く。コロシアムは試合前の今、すでに多くの人で賑わっているようだ。
「…お手並み拝見、ですわ」