成金お嬢様、ドラゴンから身を守る(後半)
聖都の中央教会の一室で、聖王は頭を抱えていた。
「一体彼女はなんなのだ…」
ルーヴルナについて、悩んでいたのだ。
「最初は、神が遣わせた聖女だと…そう思った」
そう。国を救い、民を救う気高き聖女。そう思っていたのに。
「しかし、教義に反するような行動を取った」
人から獣人の奴隷たちを解放した。勝手に期待しておいてなんだが、裏切られた気分になった。
「不安要素は排除したいと思っていた。が、しかし…」
今回彼女は、教会へ無視できないほどの奉仕をした。献金は、聖なる神への貢物。それは尊重されるべきだ。
「…むう」
聖王はその小さな身体をさらに縮こめる。
「我はどうするべき、なのだ…」
幼くして聖王という立場に立たされた彼。精神的な負担は大きいが、その立場に誇りを持っている。しかし神官の中には、幼い故に少し過激な彼を心配する者もいる…と、彼は知らない。そんな過激派の彼だが、今回の献身によりルーヴルナを排除するのはどうかと思い始めた。
「それに…神官の言っていた、ルーヴルナの予言」
『近々、国の火山にドラゴンが来ますわ。卵を産み孵すために。なにか防衛策をとることを推奨しますわ』
「これがもし、当たるのであれば。やはり彼女は、神が遣わせた聖女の可能性もある…」
まあ、残念ながらそんなことはないのだが。聖王…ランスロットは、そう思っている。
「うむ。うむ…よし、このランスロットの名にかけて、聖騎士たちを火山に配置しよう。多くの聖騎士たちを配置すれば、ほとんどのドラゴンは聖騎士たちと戦うのは面倒だと思っているのだからそれで諦めるはず。この国の火山に卵を産んで、孵ってしまったが最後。下々の民が小腹を空かせた子龍の餌食になってしまう」
それだけは避けなくては。
「それに、予言が外れて火山にドラゴンが近寄る様子すらなければ…それを理由に、ルーヴルナを処断できる」
それは悪くない考えだと、ランスロットは笑う。
「うむ、我ながら良い考えだ」
ランスロットは、側仕えの神官に命じて火山に聖騎士たちを向かわせた。
数日後。ランスロットは、報告を受ける。
「聖王猊下!火山にドラゴンが現れました!」
「なに!?誠か!」
「はい!しかし聖騎士たちを見て、我が国で卵を産むのは諦めたようです!隣国の火山に向かい、そこで卵を産む体勢に入ったとの情報があります!」
「やはり…やはりルーヴルナは、神が遣わせた聖女であったか!」
そんなことはない。しかし、ランスロットは彼女こそ聖女なのだろうと目を輝かせる。
「いや、しかし…ならばなぜ獣人などを助けたのだ。アレらは百害あって一利なし。いや、ルーヴルナは未来を知っている?なにか、獣人を助けたことによる利益を見込めるとでもいうのか…」
一瞬冷静になったが、その後やはりルーヴルナは聖女なのではないかと思ってしまうランスロット。気のせいだと気づくことはなく、その行動の裏を考える。
「…ともかく、予言を当てたのだ。多額の献金も貰った。彼女の処分は見送ろう。そして、彼女の動きを注視するのだ。怪しい動きがあればまた考えよう。そして…聖女である可能性も、見逃さないようにしよう」
彼女が聖女だった場合、どうするべきか。
「…彼女が聖女である可能性が高まるようならば、彼女と接触してみよう。もし聖女としての処遇を望むのならば、それなりの扱いも考えなければ」
ふふふ、とランスロットは笑う。彼はルーヴルナが聖女だとの証拠はまだないが、きっとそうだと確信していた。勘違いだが。
幼い聖王は、聖女に憧れがある。心を躍らせてしまうのも、無理はなかった。