成金お嬢様、店主の事情を知る
「え、わたくしをご存知ですの?」
「うん。以前パーティーで一度見かけてね。君はクリスティアン殿に完全にガードされていて話しかけられなかったけど」
クリスティアンとは言わずもがな、伯爵家の長男でルーヴルナを気に入っている男。ルーヴルナ曰く悪趣味野郎だ。
パーティーとはおそらく、モーントを雇用する原因となったあの悪夢の時のものだろう。
あのパーティーの時、獣人を解放したばかりのルーヴルナはあまり歓迎されない雰囲気だったがクリスティアンが守ってくれていた。
もっとも、守ってもらわずともルーヴルナは気にもしていなかったのだが。
「…ということは、ご店主様は貴族ですの?」
「いや、俺は…まあ、隠す必要もないか。聖王猊下の従兄弟なんだ」
「んなっ…!?」
「ああ、警戒しないで?聖王猊下からルーヴルナ嬢の話は聞いてるけど、悪印象は一切ないし」
「は、話を…それは、たとえば、夢のこととか…?」
おっかなびっくりルーヴルナが問えば、店主は首を傾げる。
「夢?」
「いいいいいえ、な、なななんでもございませんわ!」
藪蛇だったが、まあなんとか誤魔化すルーヴルナ。ちなみに聖王ランスロットは誰にもルーヴルナの予知夢のことは話していない。
「まあ、聖王猊下の従兄弟とはいえ普通の聖騎士団団長の息子でしかないから本当に気にしないで」
「ひえっ…団長の息子っ…」
「うん…まあ、次の聖騎士団団長は俺の弟で優秀な奴が継ぐから、俺はお荷物だろうから逃げてきたわけ」
その言葉にルーヴルナの震えは止まる。
「元は俺も聖騎士団にいたんだけど…弟はメキメキ頭角を現したのに俺は全然で…だから、聖騎士団で稼いだお金を元手にこの店を始めたんだ。半分道楽だけど」
「まあ」
「ふふ、普通の騎士団より何倍も給料のいい聖騎士団だからね。数年働いただけでも結構な給料になるんだ。おかげで老後の心配もないし、趣味に生きようと思って」
「そうですの…それは…」
哀れみの言葉でも掛けられるのかと心の中で身構える店主。しかし、ルーヴルナは言った。
「とても良い決断ですわ!」
「…えっ」
「人間向き不向きはありますわ!一番大事なのは適材適所ですのよ!蛇鶴國のモノを取り揃えたこのお店はセンスもいいですし、まさに適材適所でしたわね!」
とても良い笑顔で店主を全肯定するルーヴルナに、店主は気を良くした。
「そう言ってもらえるとありがたい。改めまして、俺はレジス。よろしくね、ルーヴルナ嬢」
「よろしくお願い致しますわ」
可愛らしく笑うルーヴルナに、店主…レジスは少し見惚れてしまった。