成金お嬢様、成敗の準備を始める
「とりあえず、ジル。また別行動をお願いしますわ」
「はい」
「このお手紙を聖王猊下に渡してくださいな」
ルーヴルナがジルに差し出したのは分厚い手紙。中身はもちろん、今回の経緯と孤児院の悪行をまとめたものだ。悪行については馬車で子供たちから証言を得た。
それと、ルーヴルナによる孤児院の運営を認めて欲しいとのお願いも書いてある。今ルーヴルナがやっているのは無許可での孤児院の運営。私営の孤児院もまあまあ存在するので許されないことではないが、聖王ランスロットのお墨付きがあると色々やりやすい面がある。
そして、証拠として例の契約書も同封してある。これで間違いなく過激派である聖王ランスロットは動くだろう。神の子である国民を虐げる者、神の教えに背く者は何者であっても許さないのが彼だ。
「お任せください。必ず渡します」
「ええ。わたくしは…子供達の様子をもう少し見ていたいんですの。ごめんなさいね」
「いえ、とんでもありません」
「あと…」
「…?」
ルーヴルナは、少し困った顔をした。
「お菓子、結局全部子供たちのお腹の中ですわ。食べさせてあげられなくてごめんなさい」
しょんぼりしてそう言ったルーヴルナに、ジルは笑った。
「ふふ、ではまたの機会に」
「ええ、今度こそ美味しいお菓子をジルたちにあげますわ!」
ふんす、と鼻息荒くしてそう宣言するルーヴルナにクスクスと笑うと、手ぶらのリムルに大きなテディベアを持たせて手紙を届けに向かうジル。
「行って参ります」
「ええ、よろしく」
そしてジルは中央教会へ向かう。ルーヴルナは、リムルとモーントを連れて子供達の元へ向かった。
「みんな、お部屋は決まりましたの?」
「うん、決まったよー」
「みんな満足できまして?」
「うん!ふかふかのお布団も新しいお洋服も好き!」
「お姉ちゃんがどこか行ってる間にお風呂にも入れてもらったよー!」
にっこにこの子供たちに、ルーヴルナは微笑む。ルリを見れば、涙目だった。
「えっちょっ、ルリ?どうしましたの?」
「こんなに良くしてもらえて…嬉しくて…」
「あ、悲しいんじゃなくて感動したんですのね。でしたらほら、これで涙を拭きなさい」
ハンカチでルリの涙を拭うルーヴルナ。
「わたくしがこれから、大人になるまでの間は貴方達を守りますわ。大人になったら、村を出るのもいいし村の大人として暮らしていくのもいい。貴方達の未来には無限の可能性がありますわ」
「はいっ…」
「幸せになるんですのよ」
ルーヴルナが頭を撫でてやれば、今まで孤児院の最年長として子供たちを守ろうとして気を張っていたルリはとうとう泣きじゃくった。
ルーヴルナは焦って涙を止めようと背中をさするが、その優しさにまた泣きじゃくるルリだった。