成金お嬢様、聖王を見送る
「その、な…」
「は、はい…」
何を言われるのかと身構えるルーヴルナに、ランスロットは言った。
「今後もこうして聖女殿とお茶をしたいのだ!」
「はい…?」
思いがけない聖王ランスロットの提案に、ルーヴルナは固まる。
「聖女殿は身も心も清らかで、話をしていてとても気が休まる。聖女殿ともっとお話をしたいのだ!」
とても良い笑顔でそう言うランスロットに、ルーヴルナはあちゃあと思いつつも頷いた。
…頷くしかなかった。
「も、もちろんですわ!」
「それは良かった!時に、このお茶菓子は?やけに美味しいが、初めて食べた」
「あ、それですわね。実は、わたくしの私有地に村があるのですけれど」
「それは知っている」
「そこの村でとれた小麦や豆を使ったお茶菓子ですの。村の者たちが自作したオリジナル商品ですのよ」
ルーヴルナが自信満々にそう言えば、ランスロットは目を輝かせる。
「ほう、それは良いことを聞いた。よし、その菓子を聖王御用達として認定する」
「え」
「聖女殿の村の、村興しになれば良いのだが」
「あ、ありがとうございます。嬉しいですわ」
聖王ランスロットの意外な気遣いに、ルーヴルナは初めてちゃんと感謝した。
「では、これにて失礼する」
「聖王猊下にご足労いただいてしまい申し訳ありませんでしたわ。次はわたくしの方から教会へ参ります」
「ああ、よいぞ。次もこちらから会いに来る。教会には口の軽い者もいる。下手に会話を盗み聞きされると面倒だ」
「あ…わかりましたわ。では、次の機会をお待ちしておりますわ」
心の中ではもう来るなと思いつつも、笑顔でランスロットを送り出すルーヴルナ。そんなルーヴルナに、ランスロットは気を良くして帰っていった。
「…ふう。まさか懐かれるなんて想定外でしたわ」
とはいえ、嫌われるよりはマシだ。実際、今回はランスロットの手助けによって救われた。
「…ただ、これからの立ち回りが余計に面倒ですわね」
ほう…とため息をついたルーヴルナの目の前に、マシュマロの浮かんだココアが差し出される。
「お嬢様、お疲れ様でした」
「ジル」
「よく頑張りましたね」
好きな人に優しく微笑まれて、安堵するルーヴルナ。
「お嬢様、クッキーもありますよ!俺とリムルの手作りです!」
「お嬢様。さっき聖王様とお茶したばっかりだけど、まだ入る?」
モーントとリムルにも声をかけられて、ルーヴルナは頷いた。
「ええ、もちろん食べられますわ。せっかくだから三人とも一緒にお茶にしましょう?お茶というか、ココアだけど」
ルーヴルナの言葉に、三人とも頷いた。
主人と従者のお茶会が始まった。