成金お嬢様、泣いてキレ散らかす
「リムル…!」
「あのね…僕ホムンクルスだから、結構耳がいいんだ。壁に耳を当てたら、全部聞こえた」
「獣人の俺も同じくだ」
なんということだろう。プライバシーも何もあったもんじゃない。
ルーヴルナは絶句した。
「あ、貴方たちは何をしておりますの!」
「ごめんなさい。でも、その…お嬢様、もういいよ」
「え?」
「僕、組織に戻るよ。そうしたらお嬢様は守れるよね?」
ルーヴルナの表情に、リムルは首をかしげる。
「どうしたの、お嬢様。なんで、泣きそうな顔をしてるの?」
「…っ、バカ!!!」
ルーヴルナの大声に、後から後から溢れてくる涙にリムルは驚く。
「どうして自分を大切にしないんですの!」
「僕はホムンクルスで、それを隠してて、なのにお嬢様はそんな僕に優しくて。もう、充分なんだ」
「まだまだ足りませんわ!」
ルーヴルナがキレ散らかして、クッションをバンバンと寝具に叩きつける。
「貴方がどれだけの仕打ちを受けてきたか知りませんけれど、これからですわ!これから貴方は幸せになるんですの!わたくしは、バッドエンドは許しませんわ!」
「お嬢様…」
叩きつけていたクッションを抱きしめて、泣き顔を隠すルーヴルナ。
ジルは優しくその背をさする。
「…もしどうしてもガキンチョを守りたいなら、俺たちだけで逃げても無駄じゃないですか?お嬢様」
そんな中で、モーントがそう言った。
「だからそう。アラールファミリーと険悪な組織を焚きつけて、壊滅させればいいんですよ」
「え?」
「中央教会の聖王猊下。過激派のあの人なら、焚き付ければ『神の愛する市民たちを食い物にする悪い奴』を潰そうとしてくれますよ。そもそもアラールファミリーと元々険悪な仲ですから、神官たちも喜び勇んで潰しにかかります」
それは、ルーヴルナにとっては目から鱗の発想だった。教会を利用する、など考えたこともない。それは、教会を嫌うモーントだからこその発想と言えた。
「それでいいですか?お嬢様」
リムルを売る気満々だったジルも、助かる方法があるならばそちらに乗る。
「お嬢様、あの…いいのかな、それで」
よくわかっていないながら、周りを信用するリムル。
「…」
ルーヴルナは…覚悟を決めた。
「ええ。では、聖王猊下にお手紙を書きますわ」
ルーヴルナは、聖王ランスロットを相手に『聖女』を名乗る腹を決めた。