成金お嬢様、大切な人たちを逃がしたい
「…ジル」
「なんでしょう、お嬢様」
「お願いがありますの」
真剣な表情のルーヴルナに、ジルは耳を傾ける。
「はい、お嬢様」
「貴方、モーントと共にリムルを連れて逃げなさい」
「…は?」
ルーヴルナは昨晩、対策を考えた。だが、あれだけの規模のマフィアを相手に勝ち目のある戦いに持っていくことは難しいと早々に察したのだ。
ならば、大切な人たちを逃がす他ない。
ただ、奴らの狙いはあくまでもリムル。リムルがここから去ったのを知れば、こちらには来ずリムルを追いかけ回すかも。
そうなれば自分たちは助かるが、リムルとジルとモーントは余計に危ない。
…でも、逃がす以外の手段はどうしても思いつかなかったのだ。
「ジルならリムルを守れるでしょう?」
「どういうことですか、お嬢様」
「驚かないで聞いてくださいまし。…リムルは多分、ホムンクルスですわ」
「…は?」
「そして、アラールファミリーの人体実験に使われた被験体。その唯一の成功体。だからあの子、自分の足を切り落として足枷から逃れてここに来たんですの」
ルーヴルナの言葉に、ジルは言葉を失う。
「このままでは近いうちに、アラールファミリーがここに来ますわ。リムルを売るか、アラールファミリーとことを構えるか。わたくし、どちらも嫌ですわ」
「…」
「であれば、貴方たちをここから逃がす他ない。危険なことは承知ですわ。でも…お願い出来ないかしら」
「…それでは」
泣きそうなジルの声に、ルーヴルナは驚く。
「もし万が一、それがお嬢様の夢や妄想の類いではなかったとして。お嬢様は、どうなるのです」
「それは…」
「アラールファミリーが私たちを追いかけてくるならいい。けれど、お嬢様の元にきたら?」
ジルの潤んだ瞳に、ルーヴルナはなにも言えない。
「お嬢様は、黙って殺されるとでもおっしゃるのですか?」
「…ジル、わたくしは」
「リムルを差し出せば、お嬢様は助かるのですか」
その言葉にルーヴルナは固まった。
「お嬢様はご自覚がないでしょう。けれど、私たちにとってお嬢様は命より大切な宝。…たとえ貴女に嫌われようと、貴女は私がお守りします」
「ジル、わたくしは…」
二人きりで話していたそこに、ドアがいきなりノックもなく空いた。
「…あの、お嬢様、ジルさん」
そこには、リムルとモーントがいた。