成金お嬢様、久しぶりの悪夢に凍りつく
「…や、やめて!」
屋敷の中は血塗れだった。
どこから間違えたのだろう。リムルを助けたのは、悪いことだっただろうか。
使用人たちは死に絶えた。皆苦悶の表情で絶命していた。
「…大丈夫ですわ、リムル」
それでもルーヴルナは、リムルを抱きしめる。たとえ元凶であろうと、リムルを見捨てる気はない。
「お嬢様、お願い離して!僕さえ実験台として帰れば、お嬢様は助かるかも!」
「ダメですわ。こうなった以上、いずれわたくしも殺される。ならばせめて、貴方だけは守りますわ。さあ、時間ですわ。ジルが開いてくれた転移魔法の陣に乗りなさい。わたくし、囮になりますわ」
「お嬢様!」
「長生きするんですわよ。貴方のために、ジルとモーントは命をかけたのです。…どうか、生きて」
リムルを無理矢理に魔法陣の上に乗せ、自分は懐の短刀を取り出して部屋の外に向かう。
「お嬢ちゃん、実験台十号は?」
部屋に今にも押し入ろうとしていたクリスチャンが、出てきたルーヴルナを捕まえた。
「言うわけないですわ!」
「…ふん。おいお前ら、部屋の中を探せ!」
クリスチャンの部下たちがルーヴルナの出てきた部屋を探すが、リムルは既に別の大陸へ転移したあと。そして、魔法陣も自動で消去されていた。
残されたのは、わずかな魔法の痕跡のみ。
それを報告されたクリスチャンは、ルーヴルナの髪を掴みルーヴルナの腹に蹴りを入れる。
「…っ!」
「舐めた真似しやがって…どこに飛ばした?」
「…ふふ、残念ながらランダムな場所に飛ばされますわ。わたくしでもわかりませんの」
嘘だ。別の大陸へ飛ばした。困っている人に優しく、特に子供相手なら人種すら関係なく大切にするような…穏やかな国民性でありながら軍事力もある一番まともな国を選んで。
「…チッ、ふりだしか」
「うふふ。いいえ?貴方方はここでご退場願いますわ。あの子には近付けさせませんわよ」
「なに?」
ルーヴルナのブレスレットが光る。ジルとモーントとのお揃いのものだ。そして、クリスチャンが気付いた時にはもう遅かった。
ボンっと音がして、全てが弾け飛んだ。屋敷自体が吹っ飛んだ。生存者は、当然のように誰もいなかった。
「…っ」
ベッドから飛び起きたルーヴルナ。夢だと知り、とりあえず呼吸を落ち着ける。
だが、また予知夢だろうとわかった。わかってしまった。ならば、あれは未来に起こることなのだ。
「…たしか、クリスチャンとか言う男でしたわ。組織は…アラールファミリー」
マフィアとは縁のない自分でも名前は知っている有名なマフィア。それと敵対することになると知って、怖気が走る。
けれど、リムルを返すわけにはいかない。だって、彼らを見るリムルの目は必要以上の恐れを含んでいた。
そして彼らは、リムルを実験台十号と呼んだ。つまりはそういうことなのだ。
「…対策を、練りますわ」
ルーヴルナは、寝起きの頭をフル回転させリムルを救う手段を探した。