成金お嬢様、執事見習いを可愛がる
「…出来た!」
リムルが紙を掲げて、ルーヴルナに見せる。
「お嬢様、見て!僕字を書けるようになったよ!」
「まあ、素晴らしいですわ!」
ルーヴルナはリムルの頭を優しく撫でる。リムルが掲げた紙に書いてある文字は、まるでミミズがのたうち回ったような有様だが読めることは読める。
短い期間で読み書きができるようになったのは、大した成果だろう。
「これからもたくさん文字を練習するんですわよ」
「はい!」
「では、次のお仕事として簡単な計算を覚えましょうか。足し算と引き算を覚えてくださいな」
「わかった!」
「モーント、頼みますわよ」
ルーヴルナに声をかけられたモーントは心得たと頷く。
「じゃあガキンチョ、まずは足し算からやってくぞ」
「はーい」
穏やかな時間が、このまま続くものだと思われていた。
所変わって、アラールファミリー。世界でも有数の大規模なマフィアである彼らは、実験台十号を血眼で探していた。
「あの実験に唯一耐えられた個体だ!何としてでも探し出せ!」
「でも、己の魔力を使ってだいぶ遠くまで転移した痕跡が…!」
「馬鹿野郎、だったらその痕跡から居場所を炙り出せ!」
ボスであるクリスチャンは、大事な大事な実験台十号が消えたことに怒り心頭だ。だいぶ荒れていた。
そこに、クリスチャンの腹心の部下とも言えるシプリアンが情報を持って帰ってきた。
「ボス、部下にあたるのは良くないですよ」
「シプリアン」
「情報を持ってきましたが、お預けにしましょうか?」
シプリアンからの圧に、クリスチャンもある程度冷静になった。
「…お前たち、悪かったな」
「お前たち、ボスは気が立っていただけです。ファミリーの皆を大事にするお気持ちは変わっていませんよ。これからも良く仕えなさい」
「はい!!!」
そして、シプリアンはクリスチャンに資料を見せる。
「その資料にある、片足を失った義足の子供…リムルとかいうのが、実験台十号でしょう」
「…ふむ」
「足枷から逃れるため、自分の足を切り落とすとは…思い切ったことをしたものです。生きていてよかった」
心底ホッとした顔を見せるシプリアンに、クリスチャンは苦笑する。
「あれはあくまでもホムンクルスだぞ?」
「人造人間、であっても人の姿を得た以上は人ですよ」
「わからないな」
「ボスの強みはその割り切りの良さですね」
優しく微笑むシプリアン。クリスチャンは、それは褒めてるのだろうかと迷いつつもとりあえず頷いておいた。
「さ、ボス。…迎えに行きますか?」
「当たり前だ」
「では、そのように」
ルーヴルナの次の悪夢まで、あと少し。