成金お嬢様、少年の名前を聞く
少年に義足を与えたところで、ルーヴルナはふと気付いた。
「そう言えば、わたくしまだ貴方のお名前を聞いていませんでしたわ」
「…え」
「教えてくださる?」
にっこりと微笑んだルーヴルナに、少年はすごく不安そうな顔を見せる。
「…どうしましたの?」
「あの…追い出したりしない?」
「…え?ええ、そんなことしませんわ」
少年は、おずおずと口を開いた。
「…実験台十号」
「あら」
少年は先程までの懐きようとは打って変わり、怯えた目でルーヴルナを見る。
それを受けたルーヴルナはといえば。
「それではあまり名前として使い辛いでしょう?新しい名前をあげますわ」
「え」
「そうですわねぇ…リムルとかどうかしら。可愛らしい貴方にピッタリですわ」
ポンと手を叩き名案だ、とでも言いたげな仕草をするルーヴルナ。
ジルとモーントもそれに対して拍手をするだけだ。
少年は、思わぬ反応に戸惑った。
「リムル、改めて…これからよろしくお願い致しますわ」
「よろしくな、ガキンチョ」
「ともにお嬢様をお支え致しましょうね」
そんな温かな雰囲気に、少年は思わず声を上げる。
「あ、あの!」
「なんですの?」
「もっとなんかこう…反応ないの!?」
そんな少年…リムルの言葉に、ルーヴルナは首を傾げた。
「え、反応して欲しいんですの?」
「いや、それは…」
「誰にだって聞かれたくないことの一つや二つありますわ。貴方にとって、それは聞かれたくないことではありませんの?」
「…うん」
「なら聞きませんわ。貴方の過去なんて別に興味ありませんもの」
ぴしゃりと言い捨てたルーヴルナに、リムルは感謝で胸がいっぱいになる。
「それよりも、大事なのはこれからですわ。貴方はこれから、わたくしのリムルですわ。精一杯わたくしのために努めなさい」
「…はい!」
「では、とりあえず雇用契約書にサインしてもらいますわ。ジル、ペンと契約書を」
「はい、お嬢様」
「…あ」
リムルは申し訳なさそうに言った。
「あの、僕、読み書きできない…」
「ああ、ではジルに代筆させていいかしら」
「う、うん!」
こうしてリムルは正式にルーヴルナの執事見習いとなった。
なお、ルーヴルナの両親は事後報告で新しい使用人に少年を雇用したのを知ったがルーヴルナを叱ることもなくあっけらかんと受け入れていた。