成金お嬢様、少年を拾う
「…あ、わんちゃん。またきてくれたの?」
「ばうっ」
「…え、お姉さんたち、誰?」
バギーが案内してくれた先。大きな木の下には…右足をなくした、少年がいた。
「ひっ…」
「あ、貴方大丈夫ですの!?」
そのあまりの光景に、フルールは喉を震わせて立ち尽くす。バギーは、そっと少年に寄り添った。そしてルーヴルナは、あと少しで命の灯火さえ消えてしまいそうな少年に自ら駆け寄った。
「…大丈夫じゃないです」
「この状態で生きていることが奇跡ですものね…わかりましたわ。とにかくポーションをお飲みなさい」
ルーヴルナは、後ろに控えるジルに手招きをした。
ジルはすかさず手持ちのポーションを少年に分ける。欠損を治す超級ポーションではないので足は戻らないが、少年の他の傷は治り顔色は良くなった。
「ちょっとした非常食のパンと飲み物もありますわ。いつ何があっても平気なように常に持ち歩いているんですの。どうせ非常食ですから、遠慮なく召し上がって」
ルーヴルナがそう言えば、ジルはパンと飲み水を差し出した。
少年はパッと表情が明るくなり、無我夢中でそれを食べる。
「ごめんなさいね、本当は超級ポーションがあれば欠損も治して差し上げられるのですけれど」
「んん!」
「…ふふ、今は食べる方を優先していいんですのよ」
ごめんねと謝るルーヴルナに、少年は食べながら首を横に振った。そんな少年に、ルーヴルナは優しく微笑む。
『…動物は嫌いではありませんから、捜索に協力致しましたけれど。とんでもないことになりそうですわね。まあ、乗りかかった船ですわ』
優しく微笑むルーヴルナがそんなことを思っているなんて、誰も気付かない。女神でも崇拝するような瞳で、少年がルーヴルナを見ていることに気付く者もいなかった。
手持ちの非常食を全部食べ尽くして、やっと息をついた少年。
ルーヴルナは特に少年の事情にも興味がないため、少年をどうするかだけ考えていた。
「貴方、頼るあてはありますの?」
「ないです」
「これからどうしますの?」
「…どうも出来ません」
「ふむ。モーント」
そう呼ばれたモーントは、ルーヴルナの言いたいことを察していた。
「はい、お嬢様。ガキンチョ、ちょっと抱えるぞ」
「わあ!」
モーントは少年をお姫様抱っこした。
「フルール様」
「…あ、ええ」
ルーヴルナはフルールに微笑む。
「バギーは優しい子ですわね。この子を守って差し上げていたのでしょう」
「そうなの?バギー」
「ばうっ」
「帰ったらご褒美に、たくさんのご馳走を用意してあげてくださいまし。お風呂にも入れて差し上げてくださいね」
「え、ええ。ルーヴルナ様は、その子をどうしますの?」
ルーヴルナはその言葉に少し考えて言った。
「まあ、とりあえず連れて帰りますわ。処遇はそれから決めますわ」
「…本当に、ルーヴルナ様はすごいわ」
「そんなことありませんわ」
そしてルーヴルナとフルールは少年とバギーを連れて公爵邸に戻った。フルールはバギーの労いをするために屋敷に引っ込み、ルーヴルナは少年を馬車に乗せて連れ帰った。