成金お嬢様、獣人に手を差し伸べる(前半)
ある日、パーティーが開催された。貴族のためのものだったが、ここ数年国に尽くしたルーヴルナも招待された。
そのパーティーは和やかな雰囲気だったが、突然爆発音が鳴り響いた。
そして、獣人たちが乱入したくさんの人を殺して回る。パーティーは、地獄と化した。
ルーヴルナを殺そうと、獣人の群れのリーダー格の男が近寄ってくる。ジルは必死にルーヴルナを庇ったが、無駄だった。
ジルの死体を見て、ルーヴルナは涙を流す。
「どうして…」
ルーヴルナは、ただただわからない。なぜこうなったのか。
男は言った。
「お前たちは、俺たち獣人を奴隷にした。やり返されて、当然だ」
ルーヴルナは、男の鋭い爪に首を裂かれて絶命した。
「…あ」
夢。
「また、予知夢ですの…?」
怖かった。すごく。
「ジル…」
ジルが死んだことが。なにより怖かった。
「…わたくし、自分が死んだことより」
そこまで口に出して、止めた。ジルに特別な感情なんて、ない。ないはずなのだ。彼はあくまで、自分のお目付役なのだから。
「…でも」
怖かった。本当に怖かった。泣いて、泣いて、泣いて。そして彼女は、決意する。
「やり返すなんて気力もなくなるくらい、恩を売ってやりますわ」
敵に塩を送る。そして、敵の戦意を奪う。…そのあと、ちょっぴり仕返ししてやろう。そう決めた。
「ということで、再び余った貯金と今月のお小遣いで獣人を買いますわ!」
「奴隷なんて買ってどうするんです?」
「奴隷契約書を燃やして、奴隷印を治してあげて、解放しますわ!そして、わたくしの私有地の村に連れていってそこで普通の暮らしをさせますわ!」
「…お嬢様」
ジルは、ルーヴルナが慈愛の心に目覚めたのかと心が温かくなる。奴隷解放。それは簡単なことではない。けれど、ルーヴルナなら可能だ。
…ただ、人々から理解されるかはわからないが。
それでも、ジルはルーヴルナを応援することに決めた。
「ねえ、ジル。わたくしの今持っているお金で獣人を全員買えるかしら」
「…全員は、さすがに。ですが、身体の一部を失った欠損奴隷だけに絞れば全員いけます」
「じゃあ、その欠損と奴隷印を治すための超級ポーションを買うのは?」
「…うーん。ギリギリですね」
「上手く買ってね、ジル」
ジルは心得たと頭を下げた。そして、その日のうちに超級ポーションと欠損奴隷を買い漁った。
「さて、お集まりの皆さま。今から皆さまの奴隷契約書を焼き払いますわね」
ルーヴルナは、集められた欠損奴隷たちの目の前で奴隷契約書を燃やした。欠損奴隷たちは困惑する。
「そしてこれを飲んでくださいまし」
欠損奴隷たちは、突然よくわからないものを飲まされそうになりさらに困惑する。しかし奴隷契約書を燃やされたとはいえ奴隷印の効果は残っており、逆らえないので結局は飲んだ。
すると、欠損が治り奴隷印が消えた。
「え!?」
「あ!?」
「な!?」
動揺が広がる。ある者は右目、ある者は左足、ある者は両腕、ある者は焼かれた顔が治り、そして全員が奴隷印から自由になった。
「な、なんで…」
全員が、ルーヴルナを見る。
「ここに、皆さまを奴隷の身分から解放すると宣言致しますわ!」
全員、理解出来なかった。
一瞬の間をおいて。
そして。
「おおー!お嬢様万歳!万歳!!万歳!!!」
ルーヴルナへの、万来の喝采が響いた。
「…ということで、この村でこの獣人たちを暮らさせて欲しいんですの。奴隷として扱うことは許しませんわ。平民として、村の仲間として扱いなさい」
「はい、お嬢様!!!」
元棄民たちの村に獣人たちを連れてきた。村人たちはすっかりルーヴルナに忠誠を誓っているし、なによりも棄民だった頃の記憶から獣人たちを見下すことはなく温かく迎え入れた。
そんな彼らの様子に獣人たちは困惑しつつも嬉しくなる。家と畑、家畜も村人たちの好意で用意してもらえた。村は今はすごく裕福で、そのくらいの余裕があった。
それを、ひとりの男が見ていた。
「…聖女、というのは買い被りでもないのかもな」
男は、ひとまずあの聖女だけは生かしてやってもいいと思った。