成金お嬢様、ストレスからぶっ倒れる
ここしばらくの予知夢回避と、聖王からの会談の要請にとうとう心労がマックスになったルーヴルナ。
神官が帰った後、胸が痛いと言い出してベッドに運ばれた。
ジルが心配しつつも急いでルーヴルナの両親に報告に行く。その間、モーントがルーヴルナの側についていた。
「お、お嬢様、大丈夫ですか?」
「む、胸が痛いですわ…」
「今ジルが旦那様と奥様に連絡してますから。医者もすぐに呼んでもらえますよ」
「え、ええ」
苦しそうに胸を押さえるルーヴルナ。冷や汗をかいて、息も荒い。モーントは控えめに、タオルでルーヴルナの汗を拭う。
「ふう…ふう…」
「お嬢様…」
モーントは、自分たち獣人を救ってくれた恩人をこんなところで亡くすわけにいかないとルーヴルナの無事を祈る。
実際、ルーヴルナの状況は深刻だ。心労が身体にまで現れるのは相当なこと。この場をしのいでも、後々にまで引き摺れば…最悪、今回のような発作を頻発するようになりかねない。
「モーント…」
「はい、お嬢様。どうしました?」
「苦労をかけますわね…」
モーントは目を見張る。この状況で、一番不安なはずの本人がこちらを気遣うのだから。
「気にしないでくださいよ。お嬢様のためならなんのそのです」
「でも、健康でいるって約束したのに…」
…モーントは思う。このお人好し、そんなことまで気にする必要はないのに優しすぎると。
そんな風に思われているとは知らないルーヴルナは、ジルとモーントとの約束を破ってしまったとめちゃくちゃ落ち込んでいた。落ち込む必要はないのに。
「モーント、お嬢様は?」
「ジル!…今のところ症状は変わらない」
「ジル…」
ジルは戻ってきて、すぐにルーヴルナの様子を訊ねる。…だがそれをちゃんと聞くよりも、弱々しく自分を呼び手を伸ばしてくる主人を放って置けない。
「お嬢様、大丈夫ですよ」
ジルは優しくルーヴルナの手を握る。ルーヴルナは、好きな人の手の温もりに少しだけ胸が楽になる。
「今お医者様を呼びました。旦那様と奥様は…お仕事中ですから、まだ戻れないのですが」
「いいの、お父様とお母様はお忙しいから。それより、ジルとモーントに一緒にいて欲しい…」
苦しさからか、痛みからか、不安からか、申し訳なさからか。涙の滲んだルーヴルナの瞳に、ジルとモーントは胸が押しつぶされそうになる。
「一緒にいます。大丈夫ですよ」
「お嬢様、俺たちがついてますからね!」
「うん…」
いつも元気なルーヴルナが弱った姿に、ジルもモーントもむしろ自分が胸を掻きむしりたいくらいの気持ちになった。