成金お嬢様、泣きたいのを我慢する
「そ、そそそれで今日はどういったご用件で…?」
緊張で吐きそうなルーヴルナがそう問えば、神官は言った。
「聖王猊下が、ルーヴルナ様のご活躍をとても評価なさっています」
「…うっ」
ルーヴルナは心労で胸が痛む。リアルで。グッと胸を押さえるルーヴルナの姿に、感激しているのだなと神官は勘違いを深める。
「聖王猊下は、ルーヴルナ様こそ神の遣わした聖女様なのではないかと仰っています」
「…え?」
思いもよらない展開に、目が点になるルーヴルナ。側に控えるジルも、いやそれは飛躍しすぎだろうと内心否定する。
そんな二人の様子に、神官も頷いた。
「聖王猊下は、まだ幼くていらっしゃるため少しばかり夢を見てしまわれたのでしょう。ルーヴルナ様のご活躍は、それは凄まじいものでしたから」
う、とルーヴルナはまた息を詰まらせる。つまりは自業自得ということか!いやでも、未来を変えないと破滅してたし…どうしようもなかったし…。
「ああ、そう思いつめないでください。聖王猊下が夢を見たのはそのルーヴルナ様の慈愛ゆえ。貴女が人々を助ける姿を見て、憧れたのです。聖王猊下を惑わせたなどと貴女を責める者はいませんし、いたとして私と聖王猊下が許しません」
純粋な子だと、神官は息を詰まらせるルーヴルナを見て勘違いが加速した。聖王猊下に誤解を与えたことを悔いているのだろうと思ったのだ。
ルーヴルナの方はといえば、〝聖王猊下を惑わせたなどと貴女を責める者はいません〟という余計な一言に震え上がった。いや、いる!絶対出てくる!もうやだ!と脳内パニックである。
「ただ、聖王猊下はルーヴルナ様との会談を望んでいらっしゃいます」
「え!?」
「聖王猊下は、ルーヴルナ様を聖女様だと信じていますので。…お願い、出来ますか?」
そう聞きつつも、恐縮しっぱなしのルーヴルナの様子を見ればわかる。無理だ。この子供は、聖王猊下にとても敬意を払っている。だからこそ、聖女ではないと突っぱねる役割は酷だろう。
神官はそう思い、ルーヴルナに気遣わしげな目を向ける。断るというなら、それを咎めることはしないと決めて。
そんな視線を受けたルーヴルナは、さらにパニックが加速した。いやいやいやいやいや、会談なんてして聖女ではないと言ったらそれはそれで目をつけられかねない。絶対に嫌だ。
「え、えっと、えっと…」
ぐるぐると目を回すルーヴルナに、一筋の光が当たる。
「申し訳ありません、神官様。お嬢様は…しばらく予定は空いていないのです」
ジルがそう言って、神官に深々と頭を下げたのだ。神官も、その意図がわからない大人ではない。苦笑して、頷いた。
「そういうことでしたら、仕方がありませんね。では、私は失礼致します」
「あ、え、は、はい…!本当に申し訳ありませんでしたわ!その、あの、今日はありがとうございました!」
なんどもペコペコと頭を下げて神官を見送るルーヴルナに、敬虔な信徒なのだなと微笑んだ神官はランスロットの元へ帰る。
それを見て、ようやっと息を吐いたルーヴルナはその場にへにょへにょと崩れ落ちた。