死神
古典落語の「死神」という噺をご存知だろうか。
借金を背負った男と死神の顛末を描いたものだが、その噺に人間の寿命を示すロウソクを保管する、地下の世界が語られている。
死神は言わば職業であり、それぞれ部署が存在する。
まず、人間の死に立ち会い、魂を迷わせることなく霊界に案内するのが「送迎部」、その魂を引き継ぎ、霊界での生活を補助管理するのが「管理部」、その魂が転生する手続きと案内を担うのが「転生部」、そして、古典落語の舞台となった、人間の寿命を管理するのが「寿命部」である。
その中で寿命部はかなりの激務になる。なにせ、この地球上に住む全ての人間の寿命を扱わないといけないのだ。その分給料は高いのだが、なり手は少ない。
そんな死神界にも時代の流れは否応なく押し寄せてくるようだ。
寿命部の死神たちもいろいろと困惑しているようである。
今日もロウソクを管理している死神たちが愚痴を言っている。
「ここの寿命のロウソクも、火じゃなくて電池式の電球モノが増えたな」
「最近は転生部が亡者の希望を聞くようになってきたからな。多様性ってヤツなのかね」
「しかも今は電球じゃなくて、LEDにしてくれって亡者も多いんだろう?」
「人生100年時代、とか言うけど、確実にこのせいだな。連中は栄養事情が良くなった、とか言ってるけど、生まれ変わるときの希望がハイテクになっただけだからな。今更寿命を普通のロウソクにしてくれ、なんてヤツぁ滅多にいねえよ」
「聞いた話だが、この前はLEDにソーラーパネルを付けてくれってヤツがいたんだって?」
「ああ、いた。電池式でもないから、さらに寿命が伸びるんじゃねぇか?」
「そいつの話なんだがよ」
「あ、班長お疲れ様です。そいつがどうかしたんですかい」
「ああ。ソーラーパネルのLEDにしてやったんだよ、希望通りな」
「はぁ。それが何か問題が?」
「ここ、地下だろ。太陽光なんて入ってこねぇからソーラーパネルが機能しなくて、結局産まれることが出来ずに霊界に戻ってきたんだと」