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にじ

作者: 海月くらげ

スッチーはスチュワーデスのことでした。今はもうCAになりましたが。

古い作品ですが、当時そのままの文章です。



「なーなー。虹ってさ~飛行機から見ると地平線がないから真ん丸に輪を描いて見えるらしーぜ」


「へー」


「なんだよ素っ気ねぇな。あ~ホントかどうか確かめたかった~」


「ふーん」


「あ、そだそだ。あんたたぶん帰れる組だからさ、俺の代わりに確かめてきてくんねぇ?」


「めんどくさい」


「そう言わずにさ~せっかく仲良くなった仲だし!」


「微妙な日本語使うね…」


「な!」


「そして話を聞かないと…」


「あ、でもこっちでのことは帰ったら忘れちゃうか~」


「・・・覚えとく」


「えっ?」


「"虹を確かめる"ってことだけは根性で覚えといてあげる」


「マジ!?それじゃ俺はあんたがまたこっちに来たとき聞きに行くよ!!約束な!!」













未だに何で自分がここにいるかわからない。


飛行機が好きってわけでもないし、スッチーと呼ばれる職業に憧れを抱いたわけでもない。


サービス業が性にあってるわけでもないが、苦痛も感じないので続けていただけだ。


なりたいとも思っていなかった職業になるために将来設計を大変更したのは高二の夏。


野球部が打った球が勢い良く後頭部に激突し、当たりどころが悪かったために昏睡状態のまま生死の境を彷徨った三日目の朝。



目を覚ました私の第一声が 「飛行機に乗らなきゃ」 だったことから始まった。



目覚めた瞬間から動きだそうとする私を両親と医者と看護士総出で宥めすかし、鎮静剤をぶすっと射って寝かしつけたらしい。


二度目に起きた時、当の本人であるわたしはその時のことを一切覚えていなかった。





無論、なぜ飛行機に乗ろうと思ったのかも。





だが、その後も時折ふいに飛行機に乗らねばならない気がすることが多々あり、旅行の時に初めて乗った時は最初から最後まで窓にかじりついて外を―――空を見続けた。



なぜか飛行機に乗りたがる割には飛行機自体ではなくそこから見る空に固執するわたしを見かねた友人の一人が 「スチュワーデスにでもなれば?いつでも空を飛んでいられるよ?」 と、冗談混じりに言ったのをまにうけたわけでもないが、わたしはその通りになった。




そして、現在。





「お客さま、お席にお着きになってください!」


「落ち着いてください!」





自分で言っていて何だが、落ち着けるわけがない。





この飛行機は、落ちているのだ。





数分前、突然の轟音とともに機体が激しく揺れ、右の羽根が火を吹いた。


体内の不快さから高度が急激に下がっているのがわかる。







あぁ、わたしはなんでここにいるのだろう。







泣き叫ぶ乗客、気丈に振る舞う同僚、すべてを意識の外に吐き出して――わたしはせまい窓から空を見た。





機内の阿鼻叫喚とは関わりなく先程までの雨を残してやや潤んだ空。



美しいと思うのは最後だからか。


本来なら雲一つない澄んだ空を好むのに。


自分の役目を放棄して、それでも望んだものは何だったのだろう。







そして、雲が切れ、日が地面に光を放つ。


泳ぐ瞳がふいに空のある一点をとらえた。


涙がこぼれる。


知らずのうちに笑みを浮かべる。






あぁ、やっと―――





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