4話 本人確認
短め
「…」
「…」
今、俺は那珂花と一緒にマンション前にある公園の長椅子に座っていた。
なぜこうなった?時を少し遡ろう。
「これは…え?」
俺は自分の住む部屋のポストを開けた。
その時に出てきた見覚えのあるロゴマークに、推しの名前と学校の女神の名前が入ったファイルを、神野真昼の中の人であろう人物、那珂花琴里に拾われていた。
那珂花は一度驚いたような声を上げ、しばらくの間そのファイルを凝視していた。
「あの…その」
咄嗟に言葉が出てこず慌ててしまう。
何か言わないといけないのに頭が上手く働かない。
那珂花の方を見てあたふたとしていたら、俺の存在を思い出したかのように、ふいっと顔を上げる那珂花。
その目に光は宿っていない。
「…少しお話しをしましょうか」
「あっはい」
反射的に返事をしてしまった。
だがそれ以上に、相手に有無を言わせないといったような雰囲気を纏わせた那珂花が怖かったので本能的に従わざるを得なかった。
そんな状態で公園まで連れてこられて、そして今に至ると…
だが、これだけは言わせてほしい。
(俺は悪くねぇ!)
「さて、木之原さん」
「…はい」
まず初めに口を開いたのは那珂花。落ち着いているように見えるが、その声は酷く冷たい。
「もうお気づきかと思いますが、私が神野真昼の中の人那珂花琴里です。今回の件は他言無用でお願いしますね?」
「勿論です」
そう返せば、彼女の纏う雰囲気が少し柔らかくなったような気がした。視線を合わせればその瞳にもしっかり光が宿っている。まるで先程とは別人のようだ。にしてもやはり那珂花が神野だったのか…いざ本人に言われてみても、あまり実感は湧かない。
「それで早速質問させて頂きたいのですが、何故あなたがこれを?」
そう言って那珂花が俺の前に出したのは、俺の部屋のポストに入っていたハロプロのファイル。
俺はありのままのことを話した。家に帰ってポストを開けたらそのファイルが入っていたこと。そこに偶然那珂花が来て、今回のような事になってしまったことなど。
それを聴いて溜息を吐く那珂花。
「なるほど……事情は理解しました。大方マネージャーの方が入れるポストを間違えたのでしょう。このマンション、表札が無い代わりに番号で分けてますから間違えてしまうのも納得です」
「あ、あぁ」
那珂花があまりに饒舌に語るもので、話が追いついてこない。
というか那珂花ってこんなに喋れたのか…いやまぁ学校では男女ともに仲良く話しているのを見た事があるが、普段俺と会っても会釈をしてすぐにどこかに行くというのが基本だったので意外だ……。
「私の顔に何か…?」
そんな風に那珂花を思いながら那珂花を見つめていたら本人に気づかれてしまったようだ。
「いや、何も」
ここで那珂花にその事を言っても栓なきことだ。「そうですか」と言って那珂花はポケットからスマホを取り出す。
「何してるんだ?」
「事務所に連絡するんですよ。今回の事の顛末をしっかり報告しないといけませんから」
「あ〜」
どうやら那珂花は俺の言い分を一応信じてくれたらしい。電話の最中しっかり俺のことも説明しながら話を進めていた。俺は一体どうなるのだろうか……
それから約30分後
「誠に申し訳ございませんでしたぁ!!」
俺と那珂花の前で土下座している女性が居た。