3話 事故
ピピピ、ピピピ……
「ん…くぁ〜、はぁ朝か……」
タイマーを止めて仰向けに寝ていた身体を起こす。後ろを振り向き、現在時刻を確認する。
「やっべ…」
時刻は6時。
いつもなら既に着替え終わっている頃合い。かなり眠ってしまっていたようだ。
ベッドから出て朝食の支度をする。時間が無いので軽めなものにするとしよう。
お、コーンフレークか…朝食はこれに決定だな。
「よし!」
朝食を食べ終え、着替えを済ました俺は、戸締りの確認をした後に家を出て鍵を閉める。
「ぁ」
「ん?」
隣から聞こえた声に反応して横を向いてみると、そこには那珂花が居た。声の正体は彼女のものだったようだ。
「…那珂花さん?」
「…」
「あ〜その…おはようございます?」
那珂花が隣に引っ越してきて、一週間程経ったのだが、会ったとしてもお互い会釈をする程度だったので、こういう時にどういう反応をすれば良いのか分からない。
「…おはようございます」
どうしよう…めっちゃ気まずい。
「では、私はこれで」
俺が頭の中でどうしようかと、あれこれ考えてる間に、彼女は踵を返して行ってしまう。
「嵐みたいな人だな…」
顔を上げて那珂花が去った方向を向く。少し話してみて感じたのは、そんな幼稚な感想だった。
〜学校〜
「おはよう、圭」
「はよ、和樹」
「どうしたの。朝からお疲れ気味?」
昨日と同じように挨拶を返したつもりなのだが、どうやら和樹は俺の違和感に気づいたらしい。
和樹は昔から人の機微に敏感なので、やはり誤魔化しきれない。というか、和樹に気遣われるほ程、お疲れムード出てるのか、俺。
「まぁ…ちょっとな」
「ふーん…珍しいね」
「ま、大丈夫だ。別に病気とかじゃないし」
「ならいいんだけどね。最近は例のウイルスの被害が増えてるから」
「確かにな。まぁ、ワクチンも3回接種したし、問題はないと思うぞ?」
「でも、ちゃんと手洗いうがいはしなきゃダメだよ?」
「お前は俺のおとんか?」
「はははっ」
そんな、他愛のない話をしていると、ふと教室の前へと視線が移る。
そこには他の生徒と会話をしている那珂花の姿が。
朝の時とは打って変わって、笑みを浮かべながら周囲の人達と話している。
「あ、先生来たから後でね」
「おう」
しばらく那珂花の方を見ていて気づかなかったが、いつの間にか先生が来ていたらしい。
和樹は自分の席へ着席し、姿勢を正して先生の話を聴いている。
さて、今日も頑張りますか。
〜放課後〜
「あぁ…疲れた」
「お疲れ」
「おう」
俺が机に顔を突っ伏して一人でぼやいていると、和樹がこちらに話しかけてきた。
「今日もこの後バイトだから行くけど、ちゃんと休みなよ?」
「だから、お前はおとんか」
「ははっ」
その後少し話をしてから、和樹はバイトへと向かった。
アイツのバイト先は喫茶店で、俺も一度だけ出向いた事があったんだが…あそこはダメだ。なんというか…スタッフに美男美女しかおらず、全く落ち着かない。
「はぁ…帰るか」
その時の記憶を思い出してしまい、憂鬱な気分になりつつ席を立ち、帰宅する。
〜マンション〜
そうして、マンションの自室前までついた俺は、部屋の前に設置されているポストを開き中を確認する。
普段は何も入っていないので、今回も何も入っていないだろうと思いつつ開けたのだが、中にはなんと見覚えのあるロゴマークが入ったファイルがあった。
「あれ?これって…」
手に取って見てみるもやはり見間違いでは無い。このロゴマークは俺の推し、神野真昼が所属するライバー事務所、ハロープロダクションのものだった。
(なんでこんな物がここに?)
驚きながらも、頭に残っている冷静な部分を使い、ファイルを裏返しにする。そこでまた驚く事になった。
「え……神野…真昼?」
そこには、俺の推しの名が書かれていた。そして更に下に視線を落とす。そこで俺はとんでもない物を見た。…見てしまった。
「那珂花……琴里…?」
そこには、つい先日引っ越してきたばかりの住人、那珂花琴里の名前が入っていた。
「うそ…だろ?」
まさか、那珂花が神野真昼?…いや、それも大事だが、問題はこれが俺のポストに入っていること。これってかなり重大なミスなのではないか?と内心焦りながら考えていると……
「あの…?」
「ッ!」
なんと考えている最中に本人が登場してしまった。
まずい、今これを見られたらなんと言われるか。
最悪の場合、お縄もあり得るかもしれん。
「先程から難しそうな顔をして…何かあったのですか?」
「あ…いや」
俺は、考えるあまり足元が注意不足になってしまっていた。
転けかけて左手に持っていたファイル落としてしまった。落ちたそれを那珂花が拾い上げる。
「これは…え?」
「あ、いや」
どうやら那珂花に見られてしまったようだ……。
(マジで、どうしよう……)
文化祭……や、やっと終わった。いや本当に申し訳ありません。ここ最近やばいくらいに忙しくて…今後もこんな事が続くと思いますが、何卒よろしくお願い致します。