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エピローグ

 ドラマやトリクシーの歌の感想を交わしながら談笑していると、気づけばもう夕日が落ちてきていた。

「そろそろ帰らないと」とアリソンが言うので、お開きムードとなり、それぞれ帰りの支度をする。


「レイカ、俺が送っていくよ」と澄ました顔で言うサーニャに対して、

「大丈夫、パパが来るから。またね、サーニャくん」とレイカがにべもない返事をする。二人とも、笑顔に囲まれて見送られていった。

 トリクシーもビデオデッキからディスクを取り出してしまうと、「じゃ、私もそろそろ迎え来るから」と言って、パナマ帽を被り直す。

「トリクシぃ〜、また遊びにきてね、ねっ」と妹が彼女の周りをぴょんぴょんと飛び跳ねる。他に書くところがなかったのか、キャンプに使った寝袋にサインをしてもらっていた。嬉しそうに抱きしめているが、お前それどうするつもりなんだ……。

「うん、また時間があったらね」とトリクシーが思いっきり他所行きの社交的な笑顔を見せると、俺に目配せをする。「あのさ、ちょっと相談なんだけど」

「おう?」

「今度さ、来学期受ける授業、教えてくれる?」と少女は少し恥ずかしそうに、白い頬をやや紅潮させて、俯きながら聞いてくる。

「なんで?」と俺は意地悪をして聞き返す。

「う、歌の仕事とかもあって忙しいからさ。あんたが受ける授業なら、単位が楽かなって。宿題とかも、テスト勉強とかも、一緒にできる人がいた方がいいし?」


 そうだな、と俺は頷く。一緒にできる人がいた方がいいに決まっている。


「じゃあ、そうしよう」と俺が言うと、トリクシーはうん、と頷いて、笑顔で靴を履いて玄関のドアを開く。

「じゃあ、またね、イエローモンキーくん」

 ふふ、とトリクシーが夕日を浴びながら微笑むと、長い透き通った髪が、朱色に染まる。吸い込まれそうな深い青の瞳もまた、嬉しそうに細められて、俺を見つめ返す。

「レイシスト発言してるとカーグに怒られるぞ、ホワイトタイガー」


 がるる、と虎の真似をして喉を鳴らすと、トリクシーは腰に手を当てて言う。

「また来学期ね、タカノリくん」

 暮れなずむ夕日を浴びて歩く彼女の後ろ姿は、まるで異世界の、おとぎ話に出てくるお姫様のようだった。


 そう、俺はアメリカのハイスクールという異世界に来たのだ。過去を失って、異世界に転生した。でも、それで良かったのだ。

 異世界には、異世界の生き方がある。

 そしてこの異世界には、トリクシーがいる。きっとどんな冒険よりも、どんな宝物よりも、俺の胸をときめかせてくれるのだ。


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