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第33話 アメリカで迎える初めての夏休み・・・はつまらない!?

 長い休みが始まる。

 アメリカの学校の特徴はその休みの長さにあるのかもしれない。平気で一ヶ月以上の休みがあるし、学期末の後の休みも例外ではない。意欲的な生徒はここで課外活動を行なったり、特別授業などを受けたりして自身の経歴に磨きをかける。学校の成績と同等に、あるいはそれ以上にどれだけ課外活動を行なったかを重視する傾向にあるアメリカの大学受験システムでは、休みはそういった活動を積極的に行う経験値稼ぎの場なのだ。


 しかし、俺のようにあまり通知表以外のものに関心を寄せない人間にとっては、その限りではない。

 休みはただ、長い暇な日々なのだ。


 聞いたところではサーニャは卒業単位を早く取得するために近くの短大でやっている特別講習に参加しているらしく、あまり遊べる時間はないらしい。アリソンは家族と一緒に海外旅行に行っているらしく、「お土産買ってくるね!」というテキストメッセージが休み早々に入れられてから、音沙汰がない。


 そして相変わらず、トリクシー・コーウェンが何をしているのかはわからない。試しにインターネットで彼女の名前を検索してみたものの、特段目新しいニュースは存在していなかった。もちろん、彼女の恥ずかしい写真がネットで流出した、なんていう話もないので安心材料ではあったが。

 ドーシーらにどのような処分が下ったのかは定かではない。とはいえ、違法な薬物の使用であったり、強姦未遂であったり、学校内のトラブルとして片付けるには難しいだろう。アリソンが語るところでは、最低でも退学処分、下手すると収監されることもあるのではないかとの話だった。「もちろん、被害者のトリクシーが告発しなければわからないけどねぇ」と補足はついていたが。


 いずれにせよ、この件は俺たちの手を完全に離れていった。サーニャや俺も暴行されたといえばされたのだが、特にその点について警察や学校の人間から事情を聞かれるということもなく、ドーシーの事件が大きかったのか、有耶無耶になっているのかもしれなかった。それはそれで不本意だったが、より大きな問題があるのは確かだし、俺はただ静かに休みの期間をダラダラと過ごしていた。


 灯子の通っている中学校も俺の高校と同じ地区にあるのでほぼ同じスケジュールで動いており、休み期間に入っていた。彼女はレイカちゃんと随分仲良くなったらしく、二人で「サイエンス・キャンプ」という課外活動に行くことになっていた。つまりは林間学校のようなもので、キャンプしながら理科の実験を行うという楽しそうな活動だ。

 よって今日は灯子のことを二時間ほど離れたキャンプ場まで両親が送りに行って、俺はただ一人で家でぼうっとすることになってしまった。無聊をかこつとはこのことで、兎にも角にもやることがない。


 カリフォルニアの、四季を一切感じさせない一年中同じ陽気な天気もつまらなさに拍車をかけている。来る日も来る日も同じ天気では、余計に一日が長く感じられる。


 本を読もうにも、アメリカでは日本語の本を入手するのも一苦労で、車で一時間ほど運転したところにようやく日本人向けの輸入本の店があるぐらいであった。そして漫画本が一冊千円以上するとなると、気軽に手を出すこともできない。


 そもそも車がなければ何もできない環境である。


「日本なら、ちょっと歩けば駅で、電車のりゃどこでも行けるのになぁ」と俺は独り言の恨み節を呟きながら、リビングのソファに腰を下ろした。

 特にやることがないとなれば、こうせざるを得ない。俺はリモコンを片手に、テレビを起動する。

「アメリカがドラマ大国になるわけだよ」


 座っていれば勝手にエンタメが流れてくるという意味で、テレビはこれ以上ないほどの暇つぶし材料である。とはいえ、どのチャネルを回しても当然英語が流れてくるわけで、リスニング能力を最大限オンにしなければならないという意味では、気軽に見られたものではない。


 何か見るものはないかと俺は我が家のDVDコレクションに手が伸ばしたが、いくつか背表紙を指でなぞるも、今ひとつ観たいものがピンとこない。気づけば俺は動画配信サービスを立ち上げており、『キャンディロット・インター』のシーズン3を再生していた。


 頭を空っぽにして、テレビ画面を見つめる。


 一学期で思えば色々なことがあったものだ、としみじみ思いながら、画面に映るまやかしの学生たちを見つめる。イケメンで万能超人のアレックス、その恋人でやはり万能のエリザベス、そして健気な美少女バーナデット……どこにも存在しない彼らだからこそ、俺の心に開いた穴にするすると入り込んで、占拠していく。


 ほとんど眠りそうになっていたところを、ドアベルが鳴る。

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