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第30話 犯人はアイツ・・・!?

 暗闇の中を、人影がゆっくりと動く。

 手には、小さなライト。そのライトが床から机、そしてその奥の棚へ這うように照らしていく。


 機械音がする。何かが動き出したのだ。

 人影はその音の先に向かう。


 やがて機械音が止む。


 ようやく目当てのものにたどり着いたのか、人影は立ち止まり、そしてライトで手元を照らしながら、そっと手を伸ばす。

 紙の束を持ち上げると、ライトの下にそれを持ってくる。


 そこに写っていたのは――


「なんだ、これは……」男が吐き捨てるように言った、その瞬間。


「お目当てのものは見つかったか?」

 暗闇の部屋に、ライトがつく。


 ケーシィ・ドーシーは眩しそうに両手を前に出すが、すぐに目を見開いて、俺の姿を認める。


「お前……」

「安心したぜ。お前じゃなくて、マシューズとベルチャーが来たらどうしようかと思っていたんだ」と俺はドーシーを指差していう。「わざわざ事前に窓の鍵をあけておいたんだな。用意周到なことだ」

 ドーシーは俺を鋭く睨み、黙り込んでいる。


「探してるのはトリクシーの写真だろ? それはもうこの世には存在しない。全部消したからな。お前が持っているそれは、ただのテストプリントだよ」

 カーグ先生は、本来ならばトリクシーの写真が送られていったはずのプリンターを操作して、テストページを印刷していたのだ。前話していた悪戯テクニックがこんなところで役に立つとは……。


「写真を取り込んだのは良かったが、その場で印刷して取り出しても、ダンスパーティー中じゃあ持ち歩けないもんな。だから一旦ネットワークに写真を保存してから、どこかバレないところで印刷して、ダンスが終わってからこっそりと持ち出そうとしたんだ」

「何を……何を言っているんだ?」とドーシーは俺に向かって狡猾な笑みを浮かべる。「トリクシーの写真? そんなものは知らないな。僕は忘れ物を取りにこの部屋に来たんだ。侵入したのは良くないのはわかっているが。大事なものでね。ええと、どこにいったかな……」

「言い逃れはよせ、ドーシー。ここにお前の忘れ物はない。お前の本当の忘れ物は、これだよ」


 そう言って俺は、ドーシーにそれを投げた。教室の中を弧を描いて飛んだのは、赤い花。


「これは……」

「お前の付けていたコサージュさ。どこかで落としたんだろうな。どこにあったと思う?」

 ドーシーは自分の胸をさする。そこにあったはずのコサージュがないことに気づき、その端正な顔の血の気がみるみる引いてく。


「ロッカーの中、と言えば分かるか? お前のロッカーを念の為、先生にマスターキーで開けてもらったんだ。そうしたら、このコサージュが見つかった。下の段だから、前屈みになって取り出すときに引っかかったんだろうな。で、一緒にあったペットボトルも見つけたよ。あれにレイプドラッグを入れていたんだろう? パーティーの飲み物はプラスチックのコップで出されるからな、外部のものだから後で捨てようとでも思っていたのか?」


「ドーシー」とこれまで黙って聞いていたカーグ先生が出てくる。後ろにはアリソンも続く。「詳しい話を聞くぞ。ついてこい」


 アリソンと俺は、青ざめた顔のドーシーが俯いてカーグ先生の後をついていき、ドアの向こうへと消えていくのを見送った。流石の彼も、ここまで来れば観念したらしい。

「ペットボトルに薬が入っているって、よくわかったね〜」とアリソンがほっと息をついて、俺の方を見ながら言った。


「トリクシーはコーヒーかミネラルウォーターしか飲まないんだ。俺のマル秘トリクシー知識だ」と俺が得意げに言うと、アリソンは深いエクボを作って、歯を見せて笑った。

「ごめん、タカ、ちょっときもい」


「失礼な。でも、ドリンクバーにはミネラルウォーターはなかったし、コーヒーもなかった。となると、トリクシーに薬を飲ませるには外から飲み物を用意する必要がある。もしこれが薬だけ用意して、パーティー会場で出される飲み物に混ぜられていたら本当にお手上げだったな」

「そっかぁ」とアリソンは頷きながら言うと、ドーシーが出ていった扉を再度見つめた。


「あのさぁ」と彼女は少し勿体ぶったような言い方をした。「私さ、実はね、ケーシィじゃないといいなって思っていたんだ。だって、彼って、すごい素敵な人だと思っていたから。私さぁ、正直トリクシーにちょっと嫉妬しちゃった。なんで急にそんな。ケーシィと一緒にダンスなんて、ってさ。でもまぁ、どうなんだろ、こうやって悪事が全て明るみに出て良かったのかな」

「ドーシーのこと好きだったのか」

「まぁねぇ。っていうか、ケンジントン・ハイスクールでケーシィ・ドーシーに興味がない女の子なんて、ほとんどいないんじゃない?」

「そうか……」と俺は頷く。

 それはそうだ、あのトリクシー・コーウェンがダンスに行くのを了承するぐらいだからな。


「でもさぁ、これで吹っ切れたわけじゃない? 良かったよぉ」とアリソンは顔を上げていう。目にはうっすらと涙が溜まっているように見えたが、俺は何も言わなかった。「トリクシーもこれで、目が覚めるといいねぇ」

「目が覚める……?」俺が呆然として言うと、アリソンは困った顔を見せる。

「あ、だから、ケーシィが実は大したやつじゃないって気づくって意味で……」


「そうじゃないよ、アリソン。トリクシーは今、どこにいるんだ?」


 二人して、顔を合わせる。トリクシーは、昏睡していたあの少女は一体どこにいったのだ?


 俺の携帯電話が鳴ったのは、その時だった。

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