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第28話 友達が大ピンチ!? 証拠を抑えろ!

『……早くしろよ』とアリソンが握っている携帯電話から、聞きなれない声がする。


『難しいんだよ、ちょっと待ってろ』

 男二人の声。

『そこ、そこのフォルダじゃないか?』

『……これか?』

『それだ、それ!』

『出たぜ、おっぱいだ!』


 心の臓が、止まりそうになる。横を見ると、アリソンも不安そうな顔をしている。

「アリソン、これって……」と俺が言いかけた時、


『誰だ!』

『お前ら、何見てんだ?』とサーニャの声。

『ここは委員会の部屋だぞ、部外者は出ていけ』

『その写真、何だ? ……何で裸が写ってんだ? お前ら、何してるんだ?』


 間違いない。これはマシューズとベルチャーの声だ。サーニャは今、あの悪漢二人と対峙している。


「アリソン、録音できるか?」という俺の問いかけに、アリソンが顔を上げて、困った顔を見せる。

「え、う、うん、どうやるんだろ」

 そんな俺たちのやりとりは向こうには当然伝わっていない。だがサーニャはあえて質問を重ねていく。


『その写真、トリクシー・コーウェンか?』

「お前、出ていけって言ってるだろ!」

 バタン、と何かが倒れる音。ノッポか小太りのどちらかが、椅子か何かを蹴り倒したらしい。

『なんでそんな写真を持っているんだ?』とサーニャは動じず続ける。

『おい、あいつを黙らせろ』

『おう。おいチビ、こっち来い、そんなに見たいなら見せてやるよ』

『お前ら、その写真を学校のパソコンに入れて、どうするつもりだ?』

『ああ? 今に分かるさ』

『お前ら、何をするつもりだ? あっ、おい!』


 声だけしか聞こえないが、サーニャと掴み合いになっているらしい。だが、今からサーニャがいるのであろう機材室まで走って行っても、間に合わない。俺とアリソンは固まったまま、スマートフォンから出てくる音声に耳を傾けるしかなかった。


『おい! これもあれか、ケーシィ・ドーシーの指示か?』

『なんでお前がそれを知っている? お前、誰だ? おいチビ野郎、答えろ!』

『そうなんだな! ドーシーなんだな!』

『だからなんだよ、お前、何者だ?』

『ドーシーの指示かって聞いてるんだよ!』とサーニャの怒鳴り声。そして、鈍い音の後に、一瞬くぐもったうめき声が聞こえる。


 サーニャが、殴られたのだ。


『ぐっ……』とまだ携帯の通話は生きているらしく、苦しそうなサーニャの吐息がスピーカーから漏れてくる。

『おう、そうだよ。ケーシィに頼まれたんだ。だからなんだって言うんだよ、お前は何者だ? いい加減にしろよ、ぶっ殺すぞ』


 顔を上げると、アリソンが青ざめている。

「アリソン、今、ドーシーの指示だって」と俺が言うと、アリソンは頷きながらも、申し訳なさそうな顔をしている。

「ごめん、タカ、録音できていない」


 ――せっかく、証拠と言えるような証拠を手に入れたと言うのに……!


「それより、どうしよう、このままじゃサーニャが危ないよぉ」とアリソンが涙目になって言う。

 その通りだ、今は証拠云々について言っている場合ではない。どうにか、サーニャを助ける方法を探さないといけない――


 突如、スピーカーから爆音が響く。ブゥン、ブゥンと強烈な汽笛のような音だ。

 スピーカーからだけではなく、駐車場の向こう、体育館からも聞こえてくる。


「何だ?」と俺が驚いて言うと、アリソンが答える。

「あれだよ、エアホーン。イベントの時、鳴らすやつ!」


 エアホーンは、圧縮された空気が入ったスプレー缶のようなものの上に、プラスチックのホルンがくっついた商品だ。高校のアメフトチームの応援でよくスタンドで鳴らすサポーターがいるので覚えているが、とんでもなく大きな音が出る兵器のような代物だった。しかし、そんなものがなぜ?


『この野郎! なんでそんなもの持ってやがる!』と男の一人が、俺の疑問を代弁してくれる。

『ビンゴの景品だよ……アニメ風に言うなら、『こんなこともあろうかと』だな……』と嬉しそうに言うサーニャの声も聞こえてくるが、その声は掠れていて、痛々しい。あいつ、そんなしょうもないものもビンゴで当てていたのか。しかし今以上に役に立つときはないだろう。

 俺とアリソンは顔を合わせて、頷く。今はとにかく、サーニャの元に行くべきだ。アリソンは携帯電話を大事そうに持ちながら、体育館の方へと駆け出す。俺もすぐ横を並走し、月明かりの中ぼんやりと浮かぶ前方の体育館のシルエットを見つめながら、彼女の手元から聞こえてくる音に意識を向ける。

 突然の音に慌てたのか、ガタガタとものが落ちる音がする。

『人が来る、行くぞ』

『待て、フォルダに入れる!』

『早くしろ!』

 バタバタと足音がして、一瞬静かになる。サーニャの荒い息遣いだけが聞こえる。


「サーニャ、大丈夫なの? サーニャ、聞こえてる?」

「きっとこっちからの音声はミュートしてるんだ」

 前の方から、風に乗ってか教職員の声がする。音を聞いてやってきたのだろう。

『なんだ、大丈夫か?』

『怪我してるのか?』

 携帯電話からは、驚いて声を上げる職員の声が聞こえてくる。

『立てるか?』

『携帯はしまっておくぞ』

 音声が途切れる。

 俺たちは立ち止まる。もう目の前は体育館で、今はちょうど駐車場と体育館の間にある空白地帯――街灯もなく、向こうからは何も見えない位置だった。

「先生たちが来てくれたなら、とりあえずあれかなぁ」

「ああ、とりあえず大丈夫だな。でも、今あっちに行っちまうと、俺たちも先生たちに捕まるぞ」

「うん……。でも、写真って言ってた。あれ、気になるな」とアリソンは悲しそうに言う。「その……多分、トリクシーの、裸の、だよね……?」

「……だろうな。あいつら、パソコンで何をしようとしていたんだ?」

「ケーシィが持っていた、カメラあったじゃない」とアリソンがゆっくりと言う。「あれ、やっぱり、トリクシーの写真を撮るのに使ったんだと思う。でも、あのままじゃ、あれだから、学校のパソコンに一回入れたんだよ」

「ああ、ケーブルでしか接続できないって言っていたもんな。ってことは、あの機材室のパソコンに写真が入っているってことか?」


 確かに、アリソンが見せてくれたドーシーのカメラは、メモリーカードを挿入する部分が塞がれていた。データの不正な持ち出しができないように、ケーブルを接続して学校のパソコンに繋がなければいけない仕様だ。


「ううん、ソフトを通して写真を入れるから……学校のネットワークに、あるはずだよ」

「ネットワーク? それ、どこからでも入れるのか?」

「うぅん、多分? 学校のパソコンなら、どれだって見られる……と思うけど……」いつもはほんわかしているカリフォルニア人は眉毛を八の字にして考え込んだ。

 腕時計を見ると、もうすぐ十一時だ。いくら明日から休みだと言っても、流石に親に何の連絡もなしにうろついているわけにはいかないだろう。いや、俺の親なら特に気にしないか……?

「こんな時間だけど」と俺は腕時計を示しながらアリソンに言う。「やっぱり、あいつらが話していたことが気になって……どこかで、学校のパソコンをいじることできないかな?」

「私は大丈夫だよ」とアリソンはキッパリ言う。「ん〜、うちの親、なんていうか、今いないんだぁ」

 そうか、と俺が頷くと、アリソンは当たりを見渡す。

「どうする? パソコンって、機材置き場のやつ、行く?」

「いや、体育館はこの時間でも片付けとかやっているだろうし、近づくのは難しいかもしれない。いっそ、パソコンがたくさんあるところに行こう」


 ――そう決まれば、あとは行動するだけだ。

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