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第27話 ダンスパーティーが終わっても、モヤモヤは残る。

 ダンスパーティーが終わり、ゲストたちはぞろぞろと熱気に塗れた会場の入り口を出て、砂漠地帯特有の冷たい空気が流れる夜へと繰り出していく。暗闇の中、あちらこちらでロッカーから回収して来たのであろう携帯電話の液晶画面がまたたき、頭上に広がる星空の写し鏡のようになっていた。


 灯子はレイカちゃんの家で二次会ならぬお泊まり会をすることが急遽決まったらしく、父親が着替えなどを持って迎えに来ていた。

「すごいなぁ、父さんも参加したかったなぁ。次は呼んでくれよ、タカ」と父はあたりを行き交うドレスを身に纏った高校生たちを見ながら、そんな無茶苦茶なセリフを吐く。


 俺はサーニャとアリソンと、この後も少し残ることにした。今はただ、友達たちといたい気分だった。

「学校は立ち入り禁止だからな、さっさと帰れよ」と生徒たちに声をかけている教師陣に追い立てられて、生徒たちはキャンパスを去っていく。


 俺たちは妹とその友人が父親の車に乗せられていくのを見送ると、駐車場の先にあるプレハブ教室へと歩いてやってきた。


「まさか、ケーシィがそんな人だなんて……」とアリソンは未だに信じられないと言った調子で呟く。「なんで、そんなことするんだろう……」

「でも、やったのは事実だ。俺の聞き間違いとかじゃない。あいつは確かにそう言っていた」と俺は、プレバブ教室の階段に腰を下ろす。この数時間、踊ったり、掴まれたり、転んだり、とにかく身体中が痛い。

「先生に相談した方が良かったんじゃないか」とサーニャが言うので、

「証拠がないんだよ」と俺は答えた。それはまさしく、ドーシーが言っていたことだ。全てが彼の思惑通りになっている。はらわたが煮え繰り返りそうになるが、なせる術がない。その敗北感が、俺をさらにどん底に陥れてくれる。

「でもよぉ、話ぐらいなら聞いてくれるんじゃないか? カーグ先生とかに相談すれば、調べてくれると思うぜ?」

「難しいと、思う」とアリソンがやはり静かな声で割り込む。いつもの明るさはどこへいってしまったのか、消沈している様子だ。「実際に被害者のトリクシーが何か言ってくれたらわからないけど……でも、トリクシーは、あれ、飲まされていたんでしょ? 覚えていないだろうし……実際、介抱したのはケーシィだし……」


「監視カメラとかねぇのかな」とサーニャが頭を上げる。俺たちも釣られて顔を上げるが、街灯こそあれど、監視カメラは設置されていない。

「メイン校舎の方にならあったけどね〜……」


「プレハブ教室と、体育館横のゴミ置き場には流石にカメラはないか……あ、カメラといえば。やべえ、ビンゴの景品、さっきのカメラ置いていた機材置き場に置いてきちまった」

「おぉ、随分いろんなもの当ててたもんね〜早く取りに行きなよ」

「すまん、タカ、アリソン、また休み中会おうな! ドーシーのことは……まぁ、それも休みの間考えようぜ!」

 敬礼の真似のような挨拶をしてから、サーニャは銀髪を揺らしながら上半身をぐっと前傾させて走り去って行った。


「もぉ休みかぁ……早かったね、一学期」とそんな少年の様子を見送りながら、アリソンがしみじみと言う。

「あっという間だったな」と俺は同意しながら、しかしその間に起きた数多くのこと――ほとんどがトリクシー・コーウェンという少女を取り巻く出来事――について考えていた。思い返していると、砂利を噛んだような不快な気持ちが込み上げてくる。

「あのさ」とアリソンが俺の隣に座りながら言う。俺よりも背が高いアリソンなのに、座ると俺の方が頭半分ほど高い。そうか、アメリカ人と日本人の座高――つまり脚の長さの違いは残酷だ、などと考えながら、彼女に続きを促す。


「ケーシィみたいなのって、稀だからね」


「え?」

「タカ、アメリカ来たばかりでしょ。なんかすぐに変な奴らに絡まれたりしてるけど、あんなのね、本当は全然、いないんだ」

「急にどうしたんだよ」

「タカにさぁ、アメリカのこと、あれになってほしくないなって。嫌いに」とアリソンは申し訳なさそうに言う。まるで自分がアメリカの全てを代表して謝っているかのような喋り方だ。


「嫌いになんてならないよ」

「トリクシーも、稀だよ。あんなの、普通にいたら、私なんかもう完全に埋もれちゃうもん。トリクシーは、とってもレアだよ」

「まぁ、そうだろうなぁ。高校初日の一限目で会ったから、一瞬あれがデフォルトのアメリカン高校生かと思っちまったよ」

「ん……あのさ、タカはさ、ケーシィがなんであんなことしたと思う?」

「トリクシーのことが欲しいって言っていた」


「でも、それだったら正攻法で行くんじゃないかなぁ? タカだって、変なことしないで、ちゃんとトリクシーとダンス行きたいって、言ったんでしょ?」

 俺が変なことできるだけの勇気があればね、と一瞬思って苦笑いしそうになったが、確かにアリソンの言う通りだ。ドーシーほど全てを持ち合わせている人間が、なんでここまで面倒なことをしないといけなかったのか?


「危ないところを助けてくれたから惚れるって言うのも、まぁ、女の子の気持ち的にはわからないでもないけどねぇ。でもさぁ、そもそもトリクシーは、来てるじゃない?」

「トリクシーは、ドーシーと一緒にダンスにそもそも来ていた」

「うん。それなのに、わざわざ、トラブルをふっかけて、そこを救いに行くみたいな演技って、必要かなぁ」

 うーん、と二人で唸っていると、急にアリソンの携帯電話が鳴る。

「あれ、サーニャだ」と彼女は待ち受けを見て、顔を上げて俺に言う。出なよ、と促すとアリソンはスピーカーに設定して通話ボタンを押す。

「もしもし、サーニャ?」


 しかしスピーカーから聞こえてくるのは、サーニャの声ではなかった。

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