第25話 犯人はもしかして、あの男・・・!?
「ちょっ、おま、それ本当か!」とサーニャは俺に濡れたタオルを差し出しながら言った。タオルで後頭部を拭くと、マスタードとケチャップがべったりとくっついていた。ほのかに吐瀉物のような鼻を突く臭いもして最悪だ。
「でも、レイプドラッグだなんて……」と心配そうに俺たちを見るのは、このイヤーブック委員会が使用している、体育館に隣接された機材ルームに俺を案内してくれたアリソンだ。
「やっぱ、そんなものあるわけないよな」と俺が言うと、サーニャは首を振った。
「いや、レイプドラッグは存在するし、結構ある手口らしいけどよ……お酒とかに混ぜて、女の子を昏睡させてさ……でも、うちの高校でなんて、初めて聞くぜ。めっちゃ犯罪だぞ、それ」
サーニャはそう言いながら、俺が不在の間に参加していたビンゴ大会で当てたらしいエネルギードリンクの缶を開けながら言う。
「治安が悪い学校じゃあるって聞いたことあるし、うちの親も気をつけてって言ってたけど……でも、サーニャの言うとおり、うちみたいなところじゃ、あれよね」とアリソンも続く。
「じゃあ本当にやられたのか……大丈夫かな、トリクシー……」と俺が心配そうにつぶやくと、サーニャが俺の肩に手を置いてくれる。
「大丈夫だよ、ドーシーがついていたんだろ? すげぇな、ドーシーが出てくるだけで尻尾巻いて逃げるのかよ」
「うん、何をしてるんだって言っただけで逃げた。すごい男だな、本当に……」
「ポーカーも強かったしよ、やっぱなんでもできるやつはなんでもできんだなぁ」
しかしアリソンだけは、難しい顔をしていた。いつもの柔和な表情からは想像もできない、眉間に皺を寄せ、顎に指を当てて悩んでいる彼女は、
「うーん……」と低い声を出していた。
どうした、とサーニャに聞かれると、私の気のせいだけかもだけど、と前置きしてから、アリソンは語り出した。
「なんか、変じゃない? だって、その人たちさぁ、タカのことは突き飛ばしたんでしょ? なんでドーシー相手だと何もあれで、逃げていったの?」
「そりゃお前、タカより全然強いだろ、ドーシー。でかいし」
「でもさぁ〜……結構やばいところ見られてるわけじゃない? レイプドラッグとか持ってるぐらいだし、なんかさ、あれとか、脅しとかしそうだけど。早く逃げるだけだったら、タカが声をかけた時にあれできたんじゃない?」
「まぁ、そりゃそうかもだけど……やっぱ、ドーシーのオーラじゃねぇか?」と腕を組んでいうサーニャに、アリソンは納得していない様子だった。
「あと気になったのが、タカが言ってたカメラ。スマートフォンとかじゃなくてぇ、ちゃんとしたあれで撮っていたんだよね?」
確かにマシューズが、ストラップ付きのカメラを持っていたのをよく覚えている。
「ダンス会場って、携帯電話持ち込み禁止じゃない。入り口で持ち物検査されるし。まして、ちゃんとしたデジタルカメラなんて絶対に持って入れないよぉ」
「でもアリソンはカメラ持ってるじゃないか」とサーニャが、アリソンの肩から下げられているカメラを指差して言う。
「そりゃ〜、私はイヤーブック委員会だからさぁ。ちゃんと腕章つけてるでしょ? その二人組、委員会じゃないよ?」
俺はふと、気になって言った。
「そのカメラって、私物?」
「ううん、これ、ここのだよ」とアリソンは天井を指差す。つまり、この機材室のもの、委員会の備品だと言うことだろう。「みんなも、ここのカメラ借りてやってるよ。写真部とかだったら自分のあれ持ってるかもしれないけどさ、イヤーブック委員会って基本的にエディター目指してる生徒たちだし、そんな機材は持ってないよ」
「今カメラを持っているのって、誰かわかるか?」とサーニャが俺の言わんとしていることを理解してアリソンに問う。
「うん……ここに貸出帳があるから。これは私ね。で、これは……うん、エミリー・ヒル。彼女は私と一緒にフロア回ってた。さっきも一緒だったから、違うかなぁ。で、最後の三台目が……」
「ケーシィ・ドーシーだ!」とサーニャが貸出帳に書かれた名前を指差しながら叫ぶ。三台目のカメラは、ケーシィが持っていた!
「じゃあ、あのカメラは二人組がドーシーからもらったものだったのか!」と俺が叫んだ、その時。
「僕のカメラって、これのことかい」
その男の声が、部屋に響いた。




