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第22話 恋のライバル相手のポーカー勝負の行方は・・・!?

「僕にもディールしてくれないか」


 先ほどサーニャとの勝負で負けた男が去った空席に、新たな参加者が座った。

「この手のゲームはあまり得意じゃ無いけど、せっかくチップがあるものだからね」


 サーニャの前ににこやかに座ったのは、ケーシィ・ドーシーだった。その後ろに立つのは、やはり無表情と微笑の間という曖昧な顔を貼り付けている赤いドレスの少女――トリクシー・コーウェンだった。


「あ、ああ。ようこそ、俺のテーブルへ」とサーニャが動揺を隠せない様子でサングラスの位置を直しながら言う。

「君のテーブル? ああ、そうか。君、強いんだね?」とドーシーはちらりとサーニャの持つチップの山に一瞥をくれてから、爽やかな笑顔を浮かべる。胸ポケットから出したハンカチで丁寧に自分の前のテーブルの上を拭いてから、チケットの半券を差し出してディーラーから五百ドル分のチップを受け取る。「じゃあ、お手柔らかにどうぞ頼むよ。こちらは五百ドル分しか無いから、パワープレイは勘弁してくれよ」


 無意識に、俺もサーニャの隣に座っていた。

「俺もお願いします」とディーラーに自分の半券を差し出す。


「おっ、やる気になったか?」とサーニャが嬉しそうに言い、そして俺に囁く。「ここでかっこいいところ見せないとな、オイ。アニメのセリフで言うと、『倒してしまっても構わんのだろう?』だな。最高にクールだぜ」

「そんなつもりじゃないよ」と俺は強がるが、しかしついチラリと、チップを数えるドーシーの後ろに目を向ける。

 トリクシーは彫像のように立っているだけで、俺の存在にすら気づいていないようだった。どこか眠たそうな、遠いところを見るような目がドーシーの背中に向けられ、手に持っているペットボトルから水を一口あおる。


「参加者は三人。そちらがビッグ・ブラインド、あなたがスモール・ブラインド。ミニマムベットは二ドル、スモール・ブラインドは一ドル」とディーラーがスラスラと説明をするが、あまり頭に入ってこない。言われた通りにチップを出して、最初のゲームが始まった。


 ポーカーは何度かやったことがあるが、このアメリカ式のテキサス・ホールデム・ポーカーは初めてだ。

 配られたカードを変更することはできない以上、一見完全に運に任せられるゲームのように感じられる。実際、サーニャがプレーするのを側から見ている限りでは、そのようにしか見えなかった。しかし実際には緻密な計算、記憶力、そして何よりも相手を騙すという胆力が求められるゲームであることを、そして俺がそういうゲームにあまり向いていないということを、俺が賭けたチップが簡単にサーニャとドーシーに回収されていくのを数回見るうちに悟った。


 気づけば俺のチップは最初の五百ドル分からすでに百ドル程度に減っていて、サーニャも勝ち負けを繰り返してはいるものの全体としては目減りしているようだ。そしてドーシーは俺のチップのほとんどを、そしてサーニャの一部を着実に掠め取りながら、総チップ数を増やしていた。


 このまま続けていてもジリ貧なのは明確である。初心者の俺が逆転するには、完全に運に任せるしかない。


 別に勝ちにこだわっているつもりはなかった。ビンゴ大会があること自体知ったのもつい先程のことであったし、元々はダンスを楽しみにきたのだ。灯子とレイカちゃんはすでに飽きたのかポーカーテーブルから離れていってしまっていたし、ここにいつまでも残る必要もない。


 ――そう、「トリクシーがいる」という事実を除いて、俺がここに残る理由はなかった。


 しかしその事実は、俺を繋ぎ止めるのに十分すぎるほどだった。

 きっとどこか、かっこいいところを見せたいと思っていたのかもしれない。ドーシーに勝てば、トリクシーの評価が上がるかもしれないと――たかがカードゲーム如きでそんなこと万に一つも起こり得ないというのに――考えていたのだ。

 参加費を払って残りチップが百ドルを切った時、俺は行動に移った。先程サーニャがやっていたように、「オールイン」――つまり全てのチップをかけることにしたのだ。


 百ドルは額としては大きくなくても、「全てを賭ける」という行為にはそれ相応の手札があるという裏付けの気配を感じさせる。少なくとも、軽視できるものではないはずだ。事実、俺がオールインを宣言すると、サーニャは早々に勝負を降りた。


 しかしドーシーは、ゆっくりと手札から俺へと目線を移すと、実につまらなそうに、

「……なるほど、やぶれかぶれになっているのが丸見えだね」と言い放ち、青い百ドルチップをテーブルの中央に投げながら、「コール」と勝負に乗ることを宣言したのだった。


 参加者が俺とドーシーの二人だけ、そして俺はもはや追加で賭けられるチップはなくなったため、ディーラーは矢継ぎ早にカードを配っていく。

「ショウダウン」とディーラーが短くいうと、伏せられた俺たちのカードをめくる。

 両者の札を確認して、ディーラーはチップをドーシーに寄せた。

「バッド・ラックだね」とドーシーはウェーブがかかった茶髪をかきあげながら言うと、実に見事な笑顔を俺に見せるのだった。


 俺は静かに立ち上がると、心配そうに俺のことを見上げるサーニャの肩を軽く叩いて、テーブルを去った。トリクシーがどのような顔をしているか、とても怖くて見ることはできなかった。

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