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第19話 アメリカン・ハイスクールのダンスパーティ、きらびやかに開始!

 体育館の入り口には、煌びやかなネオンが取り付けられていた。


 それを見て、妹が「わー」とか「きゃー」とはしゃぐ。俺も正直、学校のイベントというからもっとしょぼくれたものを想像していたが、ぱっと見は本当にナイトクラブのようである。……ナイトクラブを見たことがないからわからないが。


 近づいてみると、チケットを切ってくれるのはどこか見たことがある顔――俺の高校の教師陣だった。彼らも蝶ネクタイやドレスを身に纏い、見知った顔であるはずなのに普段とは全く違う雰囲気を醸し出していた。

「最終試験お疲れ様!」「楽しんでいけよ!」「はめを外しすぎないように、楽しんでね」とそれぞれ入場するゲストの生徒たちに声をかけていく。


「おう、オガーサワー、お前も来たのか」と俺に声をかけてくれたのは、洒落たタキシードに身を包んでいた美術教師だった。

「カーグ先生、こんばんは。こちらは妹のトーコです」と俺が言うと、カーグ先生は少し安心したような表情を見せた。

「先生、期末試験の話なんですけど……」と俺がばつが悪そうに切り出そうとすると、先生は大きな掌を出して俺を制して、チケットを俺の手から半ばひったくるように奪ってから、それを半分に切って俺に返した。

「その話は今はいいだろう。安心しろ、別に落第にゃしないよ。だが、お前、ああいうのを良しとしない教師もいるんだからな、気をつけろよ」と彼は白い歯を見せて笑って見せた。顎髭といい、小太りなところといい、タキシード姿がちょっとキザな映画の悪役のようで妙に似合っていた。


「金属探知機をくぐっていきな、携帯電話は持ち込めねぇからロッカーに入れてこいよ」

「タカ兄、金属探知機なんてあるんだね」と妹が目を丸くしていうと、俺もその事実に以前驚いた話をする。

「安全な高校だとは思うけど、まぁアメリカは日本と違うからなぁ。珍しい話じゃないらしいぜ、金属探知機。ニューヨークの方なんて、ほとんどの生徒が登校時に金属探知機通りらしいよ。ここじゃせいぜいこう言う大きいイベントでしか使わないらしいけど」


 チケットを購入した際にあらかじめ注意書きを確認していたので、俺と灯子の荷物は俺のロッカーに既に入れてあった。

「ありがとうございます」と俺がいうと、カーグ先生は勢いよく体育館の両開きの扉を開いてくれた。


 外のネオンに負けないぐらいの、いや、それ以上の色とりどりのライトが床、天井、壁、全てをカラフルに照らす。薄暗い体育館の中を、宝石箱をひっくり返したような眩い光が忙しなく動き、首を反らして見ればそれら全てが天井に取り付けられた複数のミラーボールから乱反射しているものだと気づく。腹に響くような低音がズンズンと、四方に設置された巨大なスピーカーから響き、体育館の中央に特設されたステージの上ではディスクジョッキーが流行りのアップテンポなダンスミュージックをかけている。


 入口のすぐ隣にはバーテーブルが設置されていて、普段は食堂でスパゲッティやらオニオンスープやらを装ってくれるおばさま方が洒落たスーツを身に纏って、入ってくるゲストたちにウェルカムドリンクを振る舞っていく。もちろんノンアルコールであるそれは、しかしこの空間においてはとびきりエレガントなカクテルとなって、俺たちティーンたちを大人の世界へと誘ってくれる。


「タカ兄、こりゃすごいね」と灯子が目を丸くして俺のことを見上げる。まるで高校っていつもこんななの? と問うているようだが、驚いているのは俺も同じだった。

「すげぇな、これは。さすが自由の国だぜ」と俺が笑うと、灯子も嬉しそうに俺の腕を引っ張った。

「あっち! ドリンクもらえるよ!」

 ウェルカムドリンクを受け取って体育館の中央へと進むと、もう既にそこはパーティー会場と化していた。まだ開場から五分程度しか経っていないというのに、既に一杯目を飲み終えたゲストたちがダンスミュージックに体を任せて激しく踊っている。中央ステージのディージェイの隣では、高学年の――おそらく高三か高四の――ダンスチームのメンバーたちがお手本と言わんばかりにキレのあるダンスを披露している。その大人っぽい動きを真似るように、俺たち一年生も踊るのだ。


「バブルの時代ってこんなだったのかな」と灯子が、母親から聞きかじった話を元に想像を膨らませる。「なんかもう、パーティーって感じ」

「そりゃパーティーだからだろうよ」と俺は苦笑するが、確かにボキャブラリーが一気に貧困になる気持ちはわかる。日本でも探せばいくらでもこういうダンスパーティをやっているクラブなどはあるのだろうが、学校で、となるとなかなかに難しい。それに、偏見かもしれないが日本人だけだったら壁の左右に分かれて様子見をして、なかなか中央で踊ろうなんて気にはなれないかもしれない。


 だがそこはアメリカ人の陽気さに身を委ねるのがベストだ。彼らが嬉しそうに、うまいとか下手とか、恥ずかしいとか、そういう感情を抜きにしてただ目一杯楽しむために踊っているのを見ると、ついつい自分も飛び込んでみたくなる。ダンスなんて一切やったことがないが、見よう見まねでも、その時の感情に任せてでも、なんでもいい。とにかく音楽に合わせてノリよく体を動かしたい。


 灯子も同じバイブスを感じ取ったのか、勢いよくドリンクを飲み干すと、俺の腕をいつも以上に強引に引っ張って、ドレスとスーツを着た少年少女たちからなる巨大な塊の一部となろうと、中央へと誘うのだった。それを予見してか、飲み終えたプラスチックカップを捨てるための蛍光色のゴミ箱が中央ステージの周りに一定間隔で置かれており、すぐにダンスに飛び込みたい者たちの勢いを決して弱まらせないように考慮されていた。

 灯子はステージの上で踊る先輩たちの姿を見ながら目をネオンの反射で輝かせ、同じようにアップビートな音楽に合わせて腕を振って腰をくねり踊ってみせた。それは決して上手と言えたものではなかったが、ダンスの出来に文句を言う奴はどこにもいない。誰も彼もが、ただ楽しむために動いていた。普段なら小っ恥ずかしくてダンスなんて人前でとてもできたものではない俺も、着なれないスーツを身に纏っているせいか、それとも腹の奥にずしんとくるスピーカーの音楽を全身で受け止めたせいか、妹と一緒に体を振り回して踊るのだった。


「楽しい!」と妹は、キラキラと光るミラーボールの反射を両手を大きく広げながら受けて深い青のドレスを煌めかせながら、満面の笑みで言った。


 妹だって、いや、むしろ妹の方こそ、アメリカという異国の地にやってくることに抵抗があったはずだ。出来上がったコミュニティを一旦破棄して、ゼロから全てをやり直さないといけない。そのストレスがなかったとは決して言えない。だがそんな彼女が今、こうして大喜びしているのを見ると、兄としても彼女を誘えたことがよかったと思えるのだった。

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