表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/37

第15話 気になるあの子に勘違いされてしまった・・・!?

「タカ兄、じゃあ私これにするから。レイカもあのシルバーにするってさ!」

「おう、え、レイカちゃんもドレス買うの?」

「うん! サイズ合わせてくれるって、ちょっと行ってくるね!」

 そう言うが早いか、灯子はドレスを大事な宝物のように抱えて、レイカちゃんと一緒に店の奥へとダッシュして行ってしまった。


 ドレスショップの中に男一人でいるのもなんだか気まずかったので、俺は店の外で待つことにした。ここに来るまでの間、妹とその友人が寄り道を何度もして、あちらこちらで買い物をした結果大量のショッピングバッグを持たされているため、誰かの付き添いであることは一目瞭然であるはずだが、どうしても胸部を露わにしているデザインの服を着たマネキンに囲まれているのは心が落ち着かない。広いわりに商品棚が左右に所狭しと並べられているせいで非常に狭い通路を通りながら店の入り口へと向かうと、


「おや」

 サングラスをした少女が一人、前から向かってきた。


「オガサワラ」と彼女が短く、俺の名を呼ぶ。よく響く、鋭い声だ。

「トリクシー?」と俺は唖然とする。「なんでここに」

「ん」と彼女は短く答え、左右を見渡してから、サングラスを外してサファイアのごとき輝きを放つ瞳を露わにする。芸能人だからパパラッチ対策なのだろうか、服装もいつものものとは打って変わって、ボディラインがすっかり隠れる、野暮ったいものであった。普段はおろしている長い金髪もまとめて帽子後ろから乱暴なポニーテールでぶら下がっている。

「ドレスを見にきたのよ」と彼女は言うと、俺と、俺の持つショッピングバッグを交互に見た。


「ドレスって、ダンスの?」

「他に何があるのよ」とトリクシーは言うと、少し考えるそぶりを見せて、「まぁ、でも確かに色々あるか」とニヤリとして言った。「そ、モープに着ていくやつ」

「えっ」と俺は驚いた声をあげると、トリクシーは慌てて人差し指を立てた。

「静かにしてよ」と彼女は言った。「学校じゃないんだから、面倒なことは嫌なんだって」

「ああ、ごめん」俺はすぐに頭を下げて謝り、そしてその様子を不思議そうに見つめているトリクシーに、次の質問を射掛けた。「えっと、トリクシー、ダンスって誰といくの? フー?」


「あー……まぁ、ね。色々と声はかけられるのよ」


「トリクシーはビューティフルだからね」と俺が言うと、彼女は吹き出した。

「あんた、まだそれいうの。懲りないね。でもほら、あの二人組いたじゃん」

「あの、泣いていた日、の……?」と俺が恐る恐る言うと、彼女はなんでもないというふうに肩をすくめてみせた。

「うん。あいつらも、私のこと誘ったよ。笑っちゃうでしょ」

「え、それじゃあ……」

 その先は聞きたくない、と言うふうに顔をしかめる俺を見て、トリクシーはくすぐったそうな顔をした。


「そんなわけないでしょ。誰があんな奴らと行くかって言うんだよ」彼女はウインクしてみせた。

「じゃ、誰と……」と俺がホッとして次の質問を投げようとした時、灯子が奥から出てきて、俺に向かって日本語でまくし立てる。


「タカ兄、お会計よろしく! ……って嘘、それって」と彼女は呆然と俺をトリクシーの間を、まさに泳いでいると言っても過言ではない、まん丸になった目で見つめた。「嘘でしょ、キャンディロットの……え、うそ……」


 トリクシーは俺を見て、そして灯子を見た。


「ふーん」と彼女はつまらなさそうに言った。「そうだよね、ドラフト二位を用意してあるのは普通だよね」サングラスをかけながら、彼女は吐き捨てるように言う。黒いガラスで隠されてしまう直前、氷のように冷たい、北極海の青よりも深い青い目が俺を突き刺すように見た。すっと振り返ると、カツカツと彼女は歩いて去って行ってしまった。


「え、トリクシーだよね、今の、トリクシーだよね」と灯子はバタバタと通路を走ってやってきた。「え、お兄ちゃん、トリクシーと何話していたの?」

 灯子はジャンプして、俺越しに遠くの人混みと混じって消えていくトリクシーを見ようとしていたが、すぐに後ろに振り返って、

「ねー! レイカ、見た? 今の見た?」と興奮やまぬ状態で話していた。


 遠くに消えたトリクシーの姿を目で追っても、もうそこには誰もいない。すぐにでも誤解を解きたかったのに、あの時のように足がすくんでしまった。どうして何も言い返せなかったのだろうか?

 俺はため息をついて、妹たちに振り返った。別に、週明けに言えばいいだろう。「妹のドレスを選んでいたんです」って。そう自分に言い聞かせながらも、どこか不安が俺の中で広がっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ