8.天使の寝顔
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「デーイヴ、来たよー」
デイヴが泊まっている来客用の部屋を軽くノックする。しばらくしても反応がなかったためノックを繰り返していると徐々に足跡が近づいてきて扉が軽く開く。
「うわ、ほんとに来たんだね」
「来てもいいって言ったじゃない?」
「それは……そうだけど」
「飲み物を作って持ってきたの。入ってもいいかしら?」
「まぁ、いいけど……なに変なもの作ってきたの?甘い匂いがする」
「変なものって決めつけないでよ! これ美味しいのよ」
この飲み物は私の前世の記憶から作った。ホットミルクの中にマシュマロと蜂蜜を入れて混ぜるだけの簡単なものだが、とても甘くて美味しい。幸せになれる味だ。
よく眠れない時に作ったものだ。デイヴもこれを飲んで眠れるといいのだけど……
「貸して。飲んでみる」
マグカップをデイヴに渡し感想を待つ。ワクワクして待っていると、突然デイヴが泣き出してしまった。
どうして!? 美味しくなかった? いや、それはない。私の考えた気まぐれレシピでお父様を美味しさのあまり感動で泣かせてしまったことはあるけども。これは私のレシピではない。
「ごめんね! 嫌いなものでも入ってた?」
「……うんうん」
「甘すぎた? 口に合わなかった?」
「……うんうん」
なにを聞いても泣いて首を振るばかりでなんで泣いているのかがわからない。これは誰か人を呼びに行った方がいいのかもしれない。
「ちょっと待っていてね。またすぐ来るから」
そう言って部屋を立ち去ろうとしていたら、思い切り手首を掴まれた。私よりも小さな手が必死に私の手首を掴んでいる。
「……行かないで」
デイヴの薄桃色の瞳から、はらはらと涙が頬を伝って床へとこぼれ落ちる。止めどなく流れ出る涙をポケットに入っていたハンカチで拭いてやるがまだ止まらない。
「デイヴとりあえずソファーに座りましょうか?」
2人がけのソファーを指差し誘導する。ふわふわなソファーに腰掛けデイヴの背中をさすってみる。正直こういう時にどうしたら良いかがわからない。
以前、私には兄弟がいなかったし従兄弟はみんな私より年上だったので年下への接し方がよくわかっていない。
「……今まで……ごめんなさい」
背中をさすることしかできない己の無力さに悶えていると、嗚咽混じりのか細い声が聞こえた。
「いいのよ。誰にも辛いって言えないのはとても辛かったでしょう? それに本心じゃなかったんでしょ?」
「……僕……お姉様に酷いこと言っちゃったのに……許してくれるの……?」
「最初から怒っていないわ」
デイヴの頭を私の肩へと引き寄せる。そのまま髪を撫でこの国の子守唄を歌う。
しばらくするとデイヴはすやすやと寝息を立てて寝てしまった。デイヴの手からそっとマグカップを取る。起こしていないか確認するために顔を覗き込むと、そこにはもう今までの生意気な少年の面影はなかった。
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