4.甘い罠(挿絵あり)
私は前世から勉強が嫌いだった。特に数学が嫌いだった。訳もわからない課題を答えを見ながら書く。
もはや手の運動だった。だが今は違う。大体の令嬢は複数の家庭教師を雇って勉強をしているらしいが、私は専属侍女のジゼルとたまに家庭教師の先生から教えてもらっている。
ジゼルは勉強を教えるのがとても上手い。数学が苦手な私でも分かるように丁寧に教えてくれる。
「ジゼル!解けたわ!」
最近苦戦していた問題がやっと解けた! 何これ!超楽しい!!
「お嬢様その調子で次の問題も解いてください」
ジゼルに追加の問題を出された。へへっ、もう楽勝よ。ん? あれあれ?……
「解けないわ……」
「お嬢様、先程の問題は準備運動のようなものです。今から基本頑張りましょうね」
ジゼルの鬼教師! 心の中で叫ぶ。
「安心してください。お嬢様が理解なさるまで何度でもお教えいたしますから。分からないところは遠慮なく仰ってくださいね」
前言撤回!! ジゼル優しい! 好き! 大好き!鬼教師なジゼルも好きだけど!
「ジゼル〜好き〜」
ジゼルに抱き着こうとしたら手を掴まれた。なんだ?
「お嬢様、私からの気持ちです……受け取って下さいますか?」
ジゼルの上目遣いィィィイ! もちろん受け取りますとも!!
「もちろん!!」
「ふふっ、良かったです。夜更かしして書いた甲斐がありました」
夜更かしして書いた? 手紙かな? ジゼルから渡された妙に分厚い紙を開いてみると、そこに書き連ねてあったのは……私の生気を軽く5年は奪えてしまえそうなほどの数式だった。
「ジ、ジゼル……こ、これは何かしら?……」
「私が一からお嬢様のためを思って作り上げた問題集です」
「て、手紙じゃなかったの!?」
「私、手紙とは申しておりませんよ」
「騙したな!」
「そんなことよりお嬢様その問題集は明日答え合わせをするので今日のうちに解いておいて下さいね」
有無を言わせぬ笑顔で微笑んでいるジゼル。どうやら拒否権はなさそうだ……こんな課題は今日限りだろうし諦めて解くか……
「明日は理科の問題集を作りますね」
転生してのんびりした生活を送れるかなとか考えていた自分を殴りたくなった瞬間だった。私ことフローラ・ブライス5歳、怒涛の日々の幕開けだ。