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ポンコツヒロイン  作者: 桜雪
第一章 前世と幼少期
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1.餅と運命

「はぁ〜、リリアナ様美しすぎて辛い」



 しみじみと噛み締めるように呟く。私は最近乙女ゲームにハマっている。ちなみにリリアナ様はそのゲームの悪役令嬢だ。



 リリアナ様は公爵家の娘でとにかく見目が良い。緩やかなウェーブがかかった白に近い銀髪に、血のように真っ赤な切れ長の瞳。神秘的という言葉が一番よく似合うと思う。見た目もさることながら頭脳博識で女神のように優しいのだ。



 そんな慈悲深い彼女が悪役令嬢と言われる理由は……ヒロインを虐めたからだ……くっ……



「意義あり!! どうしてリリアナ様が悪者にされなきゃいけないの!……うぅ……」



 机に拳を叩きつけた。普通に痛い。でもリリアナ様が味わった苦痛はこんなものじゃないわ。長年婚約者だった王子の妃になるために育てらたのに、ぽっと出のヒロインに全てを奪われたのよ。



「おまけに最後には国外追放ってどういうことよ! だいたい婚約中の身でありながらヒロインと愛を育んでいた王子には何のお咎めなしなんて……許せない」



 馬鹿ヒロインに絆されたチョロ王子……ゲームの中だけどこの国の行く末が心配だわ。その点に関してはリリアナ様が国外追放でよかったと思えるわ。



 うっ……何かが込み上げてくる。馬鹿ヒロインとチョロ王子に対する怒り?



「うぷっ……あっぶね〜。出てくるところだったわ」



 すみません。込み上げてくるのは怒りとかじゃなくて。ただのゲ……おっと失礼、胃の内容物でした。



「うぅ〜飲み過ぎたわ〜」



 乙女ゲームのことで酒を飲んで泣く日が来るなんて思わなかったな。



 そもそも子どもの頃からゲームは好きだが乙女ゲームには然程興味がなかった。そんな私がなぜ乙女ゲームにハマったかって? 



 そんなの簡単ゲームの表紙にリリアナ様が居たからである。その時から私のハートはリリアナ様のもの。目を閉じてリリアナ様の姿を想像する。



「うん。可愛すぎる。リリアナ様マジ天使」



 そっと目を開き時計を見ると時刻は23時59分を示している。今日は大晦日だ。



「おっ、今年ももう終わりか」



 特に何もない一年だった。平和という言葉が1番合う気がする。山もなく谷もない平凡な私にピッタリの一年間。少し刺激があってもいい気がするが……なんて一年を振り返っていると年が明けていた。



「明けましておめでとうございます」



 部屋には誰も居ないがとりあえず呟く。少し虚しい。



「ん〜、餅でも食べるか。お正月ってすごい餅食べるイメージあるし」



 単純に小腹が空いて餅を食べたいとかでは断じてない。お正月だから食べるのだ。そう自分に言い聞かせながら実家から送られてきた餅をレンジでチンする。



「お〜、膨れてきた膨れてきた」



 きな粉がないので醤油と砂糖をかける。これがまた美味いんだな。



「いっただきまーす」



 酔いが回っていたせいかいつもより大きく齧ってしまった。これは詰まるかもしれない。だがそんな事もあろうかと水を事前に用意している。水を飲もうとコップに手を伸ばした瞬間視界が揺らいでコップが二つに見えた。



「えっ! なにっ!?」



 驚いた私はコップを倒して水をぶちまけた挙句、動転のあまり息を思い切り吸い込んでしまった。



「っ!!」



 これはまずい。とてもまずい。息ができない。早く水を飲まないと。素早く床に落ちたコップを拾いキッチンに向かう。力を振り絞ってキッチンに着いたものの苦しくて立てなくなってしまった。



 視界がじんわりと黒に覆われていく。意識も朦朧としてきた。あぁ、酒飲み過ぎたな。新年早々餅を喉に詰まらせて死んじゃうなんて、最悪だ。まだ死にたくないな……そう思ったのを最後に私の意識は完全に途切れた。

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