1-3 情報屋
シーガイの中心部にリスポーンした。
ゲームとは言え痛覚が再現されているので程々に痛い。どうやら半分くらいはカットしているようだが、痛いものは痛い。
ムールもリスポーンしたようで側に立っていた。
「災難に逢ったな。シン。」
「全くだ。なんなんだ、あの梟は。」
「ん?なんで梟だとわかるんだ?」
「見たからだけど。」
「………ちょっと待て。見る時間があったのか?」
「まぁ、長いこと避けてたし。」
「あの速さで急に飛んできたら避けれないだろ。普通。動体視力どうなってるんだよ。」
「ちなみにやられた時は軌道さえ見えなかったよ。」
「あれより速くなるってことか。とんだ化け物に出逢っちまったぜ。」
「確かにあいつは化け物だな。」
「いや、あいつじゃなくてだな……まぁいいか。取りあえず称号獲得したみたいだから見てみな。」
ムールは呆れたように言ってくる。俺何かしたか?
システムメッセージが来てるっぽいな。
『ユニークアイテム「エルローンの尾羽」を手に入れました。』
『死亡しました。一定時間のデバフがかかります。』
『称号〈エルローンの好敵手〉を獲得しました。』
取りあえずデスペナルティは「15分間のスキル使用不可」みたいだ。実質ステータスが初期値になるようなもんだな。
残りの2つにも詳しい説明がついてた。
「エルローンの尾羽」
エルローンが認めた存在に送る尊敬の証。その煌びやかな緑の羽の独特な形状は空気抵抗を極限まで減らす。
*ユニークアイテムのため譲渡、破壊、放棄不可能
〈エルローンの好敵手〉
エルローンに好敵手と認められた。エルローンに属するスキル、または対抗するスキルの取得条件緩和。
エルローンに完全に気に入られたみたいだな。しかし良かった。エルローンとの遭遇率上昇とかだったら何回死ぬか分からないからな。エルローンに属するスキルだと、影とか高速移動とかだろうな。対抗するスキルとは何だ?単純に光とか?まぁ考えても意味ないか。
「シン。称号見たか?なんか残念な気分になるよな。」
ふむ。どうやらムールの感性は狂っておるらしい。……冗談だ。おそらく違う称号なのだろう。
「ムールはどんな称号を手に入れたんだ?」
「お、違うのか?俺は〈不幸な者〉だ。」
〈不幸な者〉
不幸は突然に訪れる。しかしその先に幸福なものも待っている。幸運率上昇。不運率上昇。
…これは良いのか悪いのか分からないな。
なお、〈エルローンの好敵手〉を見せたらめっちゃ羨ましがられた。
もう一回死ぬのは嫌だなと話していると、ムールに面白い場所があるからついて来いと言われた。取りあえず行ってみるか。
ついて行くと露天商が並んでいる場所に着いた。別に買うものなんて無いが、と思っているとムールはひとりの女性に話しかける。
「やってるかい?」
「…冷やかしなら帰ってよね。」
「今回は客として来たんだ。」
「それなら良いけど。ところでそちらは?」
この露天の商品をぱっと見た感じ商品らしき物は置いてないんだが、と思っているとムールは俺を彼女に紹介する。
「さっき知り合って一緒に死んだシンだ。そしてこちらは情報屋のフェリエだ。」
…それはダジャレか?ムールよ。
「こんにちは。シン君。フェリエよ。」
「シンだ。情報屋をこの段階でやれるのか。すごいな。」
「βテスターだからよ。初期所持金が文字通り桁違いなの。ムールともβで知り合ったのよ。」
「で、売りたい情報があるんだけど。」
「ムールは焦りすぎよ。それでどんな情報なの?」
俺とムールは称号をそれぞれ見せた。
あれ…フェリエさんが固まったんだけど。動作不良か?
「……とんでもないもの持ってきたわね。私でも整理に時間がかかったわ。〈不幸な者〉は考えようによっては有能な効果ね。そしてエルローンって何?」
俺が事の経緯を話したところ、フェリエさんは思い当たることがあったようだ。
「ユニークモンスターみたいね。これで2体目の発見情報だわ。好敵手はおそらく今のところ常人には取得不可能な条件ぽいわね。」
まるで俺が変人みたいな。
「で、いくらで買ってくれる?」
「合わせて20万ね。公開はしていいの?」
俺もこういうゲームはやってきたので情報を広めるデメリットは分かっている。しかし簡単に手に入る称号でもないし問題無いだろう。
「問題無い。」
「俺もだ。」
「そう。ありがたいわ。はい。20万ね。」
半分にしようとしたが、ムールが「このくらいだ。」といって15万渡してきた。まぁ貰えるなら貰っておくか。
「ところでムール。なんて化け物つれてくるのよ。」
きっと情報の事だろう。
「フェリエに言われたくないけどね。」
「あら、買いかぶりすぎよ。」
「はいはい。そういうことにしておきます。」
なんだかんだでフェリエともフレンドになり、一旦解散の流れになった。そろそろ夕飯の時間だからな。