2-10 機転と提案
一応隙は作れたと思うが、紗霧は大丈夫かな。俺が放った矢の影にはノアを潜ませた。上手く進めばケンは拘束されるはずだ。
シンは一人のプレイヤーと相対しながら考える。
軽装の装備に細身の剣、すらりとした体格に短めの髪。フェリエが話していた神速剣のナツメだろう。
「退くがいい。弓では戦えないだろう。」
「俺は1チーム脱落出来れば別に良いぞ。ケンのとこ潰してくれないか?」
「難しいこと言うね。あそこは朱剣だけではないんだ。朱剣だけあの侍が抑えていても意味がないんだ。」
「おそらくケンは今リスポーン待機している。千載一遇のチャンスだと思わないか?」
「戯れ言を。あの朱剣にタイマンで勝てる奴がいるとでも?」
「まぁいないだろうな。いるとしたらどこぞの神速剣くらいだろうな。」
「なるほどな。私の力が必要なのか。なら何故私を引き離そうとした?」
「元々は脱落してもらうつもりだったからな。ただ、事情が変わっただけだ。」
「私は事情が変わらないな。協力する気はさらさら無い。」
「それはどうだか?」
俺はナツメと今戦うのは得策ではない。一方ナツメも俺と戦って消耗するのを避けたいはずだ。後からケンが来た場合に終わるからな。つまりお互いに一時休戦が丸いのだ。
しかしながら俺はナツメを落としに来ている。ケンやソニアでも良いのだが苦戦することを見越してナツメにターゲットを絞った。だがナツメとここで対ケンの戦線を組めれば事情が変わるのだ。ちなみにこの展開は俺が考えているものではない。
「いいか。現時点での強豪は朱剣、神速剣、時雨、早打ちが率いるチームになる。ここで朱剣を潰すことは悪くない話だと思うが?」
「私のチームが一番弱いと?」
「そうともいうな。」
俺は言外に朱剣と時雨が強いから下位の俺らでどっちか潰して順位を上げないか?という提案をしている。
◇
ナツメはどうするべきか悩んでいた。
シンの提案は基本的にメリットしかない。早打ちがどの程度強いかは分からないが、どの道順位を一つ上げることが出来るだろう。
「ケンが何故足止めをしたと思う?」
……なるほどな。そういうことか。ずっと疑問に思っていたが。
朱剣は漁夫を狙っているのか。私とシンを戦わせることで両方倒そうとしている。つまりシンの方が強く、足止めに来たあの侍の方が弱いからそちらは自分で倒そうとした。そして消耗した私かシンを仕留める。これが朱剣の作戦だろう。
そしてそれに気付いたシンが休戦しようと持ちかけてきたのか。ならば答えは簡単だな。
「分かった。交渉成立としよう。朱剣を倒すまでの同盟関係だ。」
「話が分かって助かるよ。あ、それとケンは二人掛かりで俺たちが一旦倒したから、心配しなくても良いぞ。」
どうやらさっきのは本当だったみたいだ。なかなか早打ちもやるらしい。
シンは再び森の中へ消えていった。
◇
「あぶねー。ムール助かったわ。」
シンが安堵すると襟の辺りから一匹の蝶が出てくる。ムールの使役モンスターであるスカリアを通してムールが話を汲み取り、通信機で指示を出していたのだ。
「上手くいって良かったな。目標が変わったが、味方も増えたし問題は無いだろ?」
「大丈夫だ。ここまでやってもらえれば後は恙無いな。」
俺は紗霧と合流するために来た道を戻る。
◇
ケンはリスポーン待機の空間で溜め息をついていた。
「はぁ。まさかもう一人がシンだったとはな。」
ナツメを潰しに来たと思われる二人を察知して偵察に出てみたら、引き止め役がシンのチームの紗霧さんだったから潰しあって貰おうととっさに機転を効かせたが、まさか俺がやられるとはな。遠距離だし意味分からん作戦だったからおそらくシンだろう。
まぁこれでナツメは脱落かな。本気で戦いたかったがこれはしょうがないだろう。




