1-2 ユニークモンスター
まるで夜そのものが襲ってきたような現象に俺の胸は高鳴る。
「お前は誰だ?」
適当に言ってみたのだが返事が返ってくる。
「私はエルローン。自然の盟友だ。」
「……俺に何の用だ?」
「悪いが人間よ。倒させてもらう。」
どうやら敵らしい。
「それではこちらから行くぞ。」
俺は飛んできた物をとっさに躱す。少しでも遅ければ脳天をぶち抜かれていただろう。小さい物で助かった。岩とか飛んできてたら瞬殺だったな。
「ちょっと待て!何故俺を殺そうとする?」
「簡単なことよ。お前が人間だからだ。」
そういってまたもや飛ばしてくる。地面に突き刺さったそれは、緑色の羽だった。それは闇の中にもかかわらず光っているように見え、言葉で表すなら闇光りと言ったところか…。その不気味な光により、対峙している者が強者であることを実感する。
「なる程…。人間は魔物の敵であると。」
「そうだ。」
「争いは避けれないか。しかしただで死ぬと思うなよ。相手になってやる。俺はシンだ。手合わせ願おうか。」
「ほう。面白い。私はエルローン。自然の盟友である。お前に姿を見せてやろう。」
なんとなくだが理解した。日本語を喋る魔物のようだ。
念の為言っておくけど普通の魔物は動物と同じくそれぞれの言語を使う。後で知ったことだが、知能がとても高く日本語さえ喋れる魔物はユニークモンスターと呼ばれているようだ。
エルローンは目の前にいた。正しくは気づかないうちに目の前に現れた。目で認識できない速さで現れたのか、透明化のようなスキルを使っていたのかは全く分からないが、今の俺では認知出来ないものということは分かる。
うっすらと体が緑色なのはわかるが、全身影に覆われていて遠目だと黒い塊にしか見えないだろう。
見た目は梟であるが大きさは50センチ程だと見て取れ、普通の梟でないことだけは誰の目にも明らかだ。ここには1人しかいないけどな。
彼から感じる異様な雰囲気で立ち向かえる相手では無いことは明白だ。しかしただで死ぬのはゲーマーの名折れだろ?
「私の力に気づきながら戦う意志を見せた人間は久しぶりだよ。がっかりさせないでくれよ。」
そう言うとエルローンは高速で周りを飛び回る。速いうえに影に紛れて見にくい。そして俺の隙を見て突っ込んできた。俺は間一髪で躱す。流石にあの速度では急には曲がれないようで、すぐに追撃はこない。一旦体勢を立て直そう。
「これを避けるか。ただの馬鹿ってわけじゃ無さそうだね。」
今度は続けて突進してくる。軌道が読みやすい為何とかなっている。前に他のゲームでチャクラムを投げてくるボスがいてな。そのチャクラムがブーメランのように戻ってくるんだ。その軌道にとても似てる。親の拳より躱したチャクラムだからな。速度が5倍ぐらいになったところで軌道さえ分かれば誰でも避けれる。
このくらいなら永遠に避けれ「くっ!!」…こいつ!軌道を途中で曲げやがった!あの速度で急旋回とか、遠心力も慣性もガン無視じゃないか!少しくらってしまったが次は避ける!
急旋回の時、陽炎のような歪みが見えた。どうやら曲がるために空気の密度が変化するらしい。
全集中を空気に向けろ。空気の流れを感じろ。見にくいものは見なくていい。空気から間接的に見るんだ。
シン、いや白井進悟は今の大学に入れた理由の一つである、生まれつきの技能を発動させる。つい2ヶ月前に付けられたこの技能の名前は“物理演算”。周囲の物理運動をほとんど計算し動きを予測する、ある意味第六感と言っても差し支えないであろう技能である。
物理現象が完全でない今までのゲームでは本来の力が発揮されることは無かったが、完全に物理現象を再現したUNOであれば、話は別だ。しかしこの技能は予知ではなく予測するものであり、絶対にあたるものではない。さらに魔法という別の現象が要素に含まれたこの戦いにおいて、あたる確率はかなり低い。
にも関わらず、シンは今までやってきたゲームの経験と勘によって足りない部分を補い、エルローンの攻撃を躱していく。エルローンの旋回は連続で使えないのも大きいだろう。
この戦いが始まってから1時間が経過しようとしていた。エルローンは驚いていた。今までにこの変幻自在な連撃を躱し続けたものはいない。
エルローンはとうとう切り札であるスキルを使った。これは尋常ならぬ人間への尊敬であり感謝であった。
〈亜光速〉
これによりエルローンの体は音を遥かに置き去りにし、完全にシンの認識の外側へと出た。
連撃が止まったと思った瞬間、俺の体には深い致命傷が刻まれていた。それに気付いた時に空気がどっと動き出す。何が起こったのかを察した俺は敗北を確認する。
「私の勝ちのようだ。しかしお前は素晴らしいものを見せてくれた。またどこかで見えることになるだろう。では。」
「あぁ。また会えると良いな………」
俺の意識はなくなる。
そこには何事も無かったかのように、鬱蒼とした森が広がっていた。