2-2 三人の戦闘狂
2章の視点は目まぐるしく変わります。
シン含め全員の転移が完了する。どうやら隠れ家は洞窟みたいだ。広さはまぁまぁあって6人がくつろぐことも可能だ。入り口の真反対の台座にはうっすら光る鳳珠が置いてある。
「さて、開始まで5分だとよ。」
「役割分担だけしましょうか。」
フェリエが役割を決める。
「とりあえず二手に分かれましょう。偵察をヴィズと紗霧とシンで、防衛を私とムールとカズラ君でやるわ。」
「偵察はどのくらい踏み込んで良いの?」
「まずは安全第一で戦闘は控えめで。他の隠れ家の位置把握だけしましょう。暗殺できるならしても良いけど見つからないようにね。」
「了解。それなら個別で動こうか。」
「分かりました。」
「なら行ってくるか。ムール防衛は頼んだぞ。」
今回防衛はほぼムール一人で行うことになっている。罠の威力がそれほど高いからだ。しかし稀にいる猛者対策でフェリエも待機している。カズラ君は待機しながら偵察が出来るため実質偵察班である。
5分経って通れなかった洞窟の入り口が開く。同時に3人が外に出る。外は木が多く隠密しやすそうな地形だ。
俺は夜の狩人服に加え影のマントを羽織った隠密特化装備である。昼なので〈影同化〉が発動しないので実質〈認識阻害〉のみついている状態だ。
ちなみに紗霧はもちろんのこと〈忍者〉であるヴィズも隠密系の装備は付けていない。つまりこの二人はどうせ見つかる。フェリエもそれは分かっているので、隠密優先の指示は主に俺に対しての指示だろう。多分目立ちすぎるなよということだ。つまり俺はいくらでも殺せる。
俺は隠密しながら索敵をする。まだ動いているチームも少ないと思われるのでどちらかというと隠れ家を探している。
念のため弓はインベントリから出しておく。なおこの弓は普通の弓である。金属矢を撃つ場面でないので複合弓は使わない。
このイベントにはアイテムの持ち込みが10個までという制限がある。これがなかなか厄介で、装備も数にカウントされる。つまり俺は
・夜の狩人服
・影のマント
・弓
・複合弓
・短剣
・矢束×2
・金属の矢束×2
・使役の指輪 (ノア)
という持ち込みになっている。矢束は10本の矢をまとめたアイテムである。それでもなお持ち込める矢の数が少ないので無駄遣いは出来ない。ここで矢を作るという選択肢もあったのだが、〈木工〉や〈細工〉を持っていなかったので止めた。ほとんどのスキルは何回か使わないと失敗する確率が高いので付け焼き刃だと大変なのだ。
そうして標的を探しながら洞窟がある崖沿いに進んでいった。
◇
ヴィズは森を音を出来るだけ殺して横断していた。
シンとは違い隠れ家から離れているのだ。フェリエの懸念はおそらく自分たちの隠れ家が発見されることと色んなチームからヘイトをかうことだ。バトルロイヤルにおいて大事なことは敵を倒すことでなく生き残ること。ましてリスポーンが存在する今回のイベントでは尚更だろう。
しかし私はキル数を稼ぎたいと思ってしまった。シンならば気付かれずに殺すことも出来るだろう。そういう構成と実力を持ち合わせている。シンは必ずキル数を稼いでくる。
シンの常に隣を歩んでいたい。その思いが私を走らせているのだ。
懸念事項を払拭する手立てはあった。フェリエにも許可は貰っている。それが出来るだけ自陣から離れた位置で戦闘をして、帰る時には死んで帰ってくる作戦だ。これならば隠れ家が見つかることはほぼなく、やり返される可能性は低くなる。
戦姫の忍者服の〈軽量化〉と〈立体行動〉そしてスクロールから獲得した〈軽量〉によって、足場の悪い森の中でもかなりの速さで進むことが出来る。
〈格闘家〉ということもあり武器を持ちながら進む必要が無いことも大きいだろう。
私は森を抜けるまで走りつづけた。
◇
紗霧はこそこそと森を進んでいた。
フェリエの指示にきっちりと従っているのはこの真面目過ぎる性格からだろうか。私はそんなことを考えながら仲間の顔を思い出していた。
私は人付き合いが苦手だった。それは今もかもしれないが、そうでないと信じておこう。カズラ君に相談したのは偶然だった。偶々見つけた洋服屋の店主が私にとって比較的話しやすい弟のような年齢で、偶々その子のチームが1人開いていて、私の実力を知っている人がメンバーの一人だっただけ。その偶然の重なりでフルメンバーでこうしてイベントに参加することが出来たのだ。他プレイヤーと協力するゲームに憧れていた私には最高の結果をもたらしたのだ。
しかし本当にチームの一員として認められているのだろうか。おそらく私が一番弱い。私自身実力が無いこともないと自負しているが、5人は規格外にゲームが上手いのではないだろうか。
人付き合いが苦手な分、人を見ることは得意になっていた。フェリエ、シン、ヴィズは明らかに実力があるし、ムールとカズラ君も力を持っている気がする。実際にその力を見せられたわけではないが、二人には余裕がある。まるで大抵のことなら何が起こっても問題はないかのような。
私が役にたてるのは戦闘だけだろう。ならばそれに力を注ぐだけだ。私は刀の柄にそっと触れながら先へと進む。




