1-32 再びの訪問者
ピンポーン!
朝から玄関の呼び鈴が鳴り響く。
なんだなんだ?宗教勧誘はもう飽きたんだけど。
急いで着替えて扉を開ける。
「あ、お兄ちゃん遊びに来たよー!」
俺に弟も妹はいない。では誰がお兄ちゃん呼びしてくるのかって?
そこにいたのは椎名千景。俺の幼なじみであり、時雨という二つ名が付くほどのゲーマーである。
「千景か。1週間ぶりくらいか?」
「私もUNOやってたからね。なかなか来る暇が無かったんだよ。」
俺は千景を部屋に入れて麦茶を出してやる。
「お兄ちゃんも鳳雛祭でるでしょ?どんな感じ?」
「一応メンバーは集まったかな。結構いい線いくと思うけど。」
「お兄ちゃんソロばっかりしてるから知り合い少ないでしょ。」
「そうなんだよな。だから成り行きで集まったメンバーだな。」
「そんなんで勝てるの?私はチームから誘ったよ。」
千景はプロゲーミングチームに所属している。ただしストリーマー部門に所属しているので、特定のゲームではなく色んなゲームを配信している。腕前が良いので大会とかにも出てるけどね。
ちなみに俺と那々はアマチュアで大会には出ている。趣味の範囲である。賞金は貰うけど。
「千景のとこのチーム強いんだよなぁ。」
「絶対優勝するからね!」
「そういえばUNOに配信機能あったっけ?」
「今は無いよ。隠し要素を配信に映されると困るって運営が言ってたからね。でも色んなところからの要望があって近々機能追加されるらしいよ。」
「お前それ仕事サボってるじゃん!」
「少しぐらい休んでも大丈夫なの!」
「いや、まぁいいけどさ。それで今日は何しに来たんだ?」
「そうだね。UNOはイベントまでは敵同士だしやめた方がいいでしょ?」
「別に問題ないだろ。」
「私が問題あるの。そうね。CHAとかどう?」
CHAはCreature Hunt Areaの略称であり、半年ほど前に流行っていたゲームである。プレイヤーはそれぞれ武器を選択してエリアに出現するモンスターを狩るVRMMOゲームだ。狩ったモンスターの素材で武器を強くして徐々に強くなっていくのだ。
「久しぶりにやるな。」
「今日はお兄ちゃんがいるから配信は止めとくね。」
「うん。助かるよ。」
俺は一般人である。というか千景は人気が高いので、男性がいると不興を買う可能性があるのだ。なので千景の配信に出たことはない。
早速ゴーグルをつけてCHAにログインする。那々と同じく俺の家に来るときはいつもゴーグルを持参してくる。
懐かしい街並みが視界に広がる。全盛期程ではないが、人気のゲームではあるので賑わっている。
ゲームでの千景の名前はソニアなのだが、ソニアは有名なので名前に気づいた人が話しかけてくることがある。ソニアがファンサービスしている間は俺は少し離れて陰を消しているわけだ。人気者は辛いし、人気者の周りの人も辛いってわけだ。
何回か足を止められながらも集会所に到着する。集会所で依頼を受けて討伐に向かうわけだ。別に依頼を受けなくても良いのだが、依頼を受けると集会所ランクが上昇するし、目標の近くに転送してくれて便利なのだ。街から歩いていくのは強いモンスターほど遠くなるから大変だ。
2人で討伐出来る限界のモンスターを一体選んで依頼を受ける。転送のカウントダウンが0になったらもう森の中だ。
そこから軽く歩いて目標を発見する。周りに2人のプレイヤーがいるので同じ依頼を受けたのだろう。
ソニアが近付いて話し掛ける。
「バザラガ討伐ですか?」
バザラガとは目の前にいる二本角の熊である。
「あ、そうです。…ってソニアさん?!」
2人はどうやら視聴者らしい。
「はい。ソニアです。」
「あの、先に討伐良いですよ。戦いが生で見れるのは光栄なので。」
「良いんですか?時間かかりますよ。」
討伐してから1分経てば再び沸きなおすが、討伐に多少は時間がかかるからな。来た順に大人しく並ぶのがCHAでの共通マナーである。
「はい。こういう機会滅多に無いんでね。」
「なら、お先に失礼します。」
そう言ってバザラガに向かう。俺も薄くしていた影を元に戻す。
「一緒にいる人誰だろう?」
「ソニアさんについていけるのかしら?」
などと聞こえるが良くあることなので気にしない。
俺たちはバザラガに攻撃を仕掛ける。
まずは俺が遠くから一撃目。俺の使っている武器は弓である。一撃が強いが連射力が低くどちらかというとサポートよりの武器だ。
対してソニアはライトボウガンである。連射力が高く一撃は弱い、そしてこちらもサポート武器である。
本来この二種で挑む場合、盾役がいないため瞬殺されることが多い。しかし俺とソニアであればなんとかなるのだ。
俺がヘイトを稼ぎやすい火力技を使ってヘイトを引き回避をし続ける。そしてソニアが安全圏から大量に攻撃をする。この動きによって完封する事が可能なのだ。
俺の負担が大きいと思うだろ?実はソニアもかなり神業を行っている。俺は予備モーションを見極めて回避をしているだけだ。しかしソニアは何種類もある弾のクールタイムをすべて把握して、0.1秒たりとも無駄にせずに最高効率で弾を放ちながら全弾急所に入れているのだ。さらに俺が避けられない範囲技に合わせてスタンする技も入れている。
この無駄のない動きこそが時雨の名の由来であり、俺には真似できない業である。4つくらい脳味噌があればできるかもしれない。
そのまま一方的にバザラガを討伐した。
そして、あの2人にソニアはお礼を言って帰還する。
俺たちの狩りは夜まで続いた。何種狩ったかも分からないくらいだ。
十分狩り尽くしたら俺は千景を家まで送ってやった。女子独りは危ないからね。
「またねー!お兄ちゃん!」
「あぁ、またな。」
俺は帰路についた。
イベント前で一度章を変えたいと思います。2章が本番みたいなところがあるので楽しみにしておいてください。
評価、ブックマークありがとうございます。読んでくれる人が増えたので2章までは毎日投稿頑張ろうと思います。
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