1-30 絶望の龍
ドラゴンケイブ中層。
広大なエリアと強大な敵により、攻略難易度は現段階では一番高い場所である。
しかし、そんなことは微塵も知らない呑気な6人は冷気が漂う中層を探索していた。
「敵いなくない?」
「かなり広そうだからな。出会いにくいんだろうな。」
「でもいないことは無いみたいだぞ。」
ムールが指した方にいたのは、人くらいなら丸呑みしてしまいそうな大きさはある蛙である。ピョコピョコと飛び跳ねてこちらに向かってくる。
「ちょっと可愛いですね。」
「カズラ君正気?十分キモいわよ。」
「そうですかねぇ。」
〈瞬身〉
ヴィズが先制攻撃を仕掛ける。ヴィズの重い一撃を受けた蛙は、身体を大きく歪ませるが、死ぬ雰囲気はない。
それを見た紗霧が刀で薙ぐ。しかしその刀がヌメヌメとした身体を切り裂くことはなく、弾かれる。
「物理耐性持ちかしら?軟らかいけど堅いわね。」
「魔法なら効くのかな?」
〈魔刃〉
早速紗霧が魔法の刃を飛ばす。だがそれもあまり効いていないようだ。
「魔法耐性もあると。厄介だな。こいつ。」
口から謎の液体を吐いてくる蛙であるが、そんな物に当たる人はいない。でもどうしたものか。
「それなら僕の番ですね。」
〈破魂〉
カズラ君は下級死霊を蛙に向かって飛ばす。すると蛙は死んだように動かなくなった。
〈抜魂〉
カズラ君が魂を抜き出せたということは蛙は死んでいたということである。
「何それ?強っ!」
「破魂は魂そのものに攻撃を加えるので防御力無視出来るんですよ。」
「こういう防御重視の敵には強いわけだ。」
「そうなんですよ。」
死霊術は魂または死霊が必要な代わりに強力な技が多いようだ。単純な1対1では何も出来ないが、集団戦で発揮される力は相当なものになるのではないだろうか。
そんなことを考えていると紗霧が突然刀を振る。
ウギャッ
空を斬ったかと思ったらいきなり真っ二つになったカメレオンが出て来た。
「気配感知がなかったら危なかったですね。」
「カメレオンか。注意しとかないとな。まさか見えない敵がいるとは。」
気配感知の範囲は2mぐらいと言っていた。つまり紗霧はカメレオンが2m以内に入ってから反応して斬ったことになる。カメレオンの速さが分からないからなんとも言えないが、反応速度が相当速いように思える。俺が"物理演算"を使えば透明な敵でも数m以内に入れば気付けるため、撃退は可能だ。しかし、いきなり2mの近さで発見した敵に反応するのは難しい。俺より反応は良いヴィズでも難しそうだ。紗霧はただ者じゃなさそうだ。
「またなんかいるぞ。トカゲか?」
「あれはコモドオオトカゲみたいね。」
コモドオオトカゲ、別名コモドドラゴン、鹿や牛に加え人すらも食べる肉食のトカゲである。そして狩りをするので目が良く足が速い。現実では絶滅危惧種だが、ここはゲーム世界なので倒させて貰おう。
こちらに向かってきたそのトカゲはなんと魔法を放ってきた。地面から太めの岩が突きだしてくる。地属性と思われるその魔法をそれぞれ避ける。
避ける能力はヴィズと紗霧が高く、次にカズラ君とムールで最後にフェリエという具合に低くなっている。低いといっても平均に比べれば全然高いのだが。え?俺はどうなんだって?それは技能を使ってるかで大きく変わるからなんとも言えないな。本気を出せば余裕で一番高いとだけ言っておこう。
避けたと思ったらヴィズが〈瞬身〉を使って倒していた。あのスキル強すぎるって。ナーフした方がいいぞ。
そんなこんなで進んでいると、突如けたたましい轟音と共に奥から巨大な物体が飛んできた。
一瞬隕石かと思ったが、横に飛んでくる隕石があってたまるか。大きな体に二枚の翼、飛竜とは違い前足があり、威圧感が今までのどのボスよりもある。死の危機という意味ではエルローン以上だろう。
『レジェンドボス:覇龍リザギア との戦闘を開始します。』
この洞窟の名の由来の一端となった龍は大きな咆哮を上げる。
『覇龍リザギアの〈龍の威圧〉の効果を受けました。動きが制限されます。』
身体が硬直した。口を動かすので精一杯である。
「フェ、リエ……策…は?」
フェリエは目を閉じて答えを示す。
ここが引き時らしい。
龍の横薙ぎ一発で6人は全滅した。
パスルへと帰ってきた。一旦風船洋服店に戻る。
「まさか手も足も出ないとはね。」
「あそこまでやばい奴が出てくるとは思わなかったな。」
「あれはどうしようも無いね。」
「何も出来ませんでしたし。」
「下の層はまだ無理そうですね。」
「一旦保留かぁ。」
流石に龍に襲われるとは思わなかったな。ていうかレジェンドボスってなんだよ!レイドボスの100倍は強いだろ。
◇
自分より遥かに弱い生物を一薙にした、神話の時代から生きる生命体は再び洞窟内を飛び回るのだった。
この時点でリザギアの属性が分かった人は天才だと思います。




