1-26 レイド討伐 前編
「普通に敵が強いわね。」
「確かにな。」
洞窟内に出るモンスターはケイブグソクムシ、バット、ケイブスパイダー、チビロックゴーレム、そして飛竜の5種類。
グソクムシとバットは問題ないが、遠距離から糸を放ってくるスパイダーと攻撃が通りにくいゴーレムはかなり厄介だった。
スパイダーは面倒くさいだけで倒すのは簡単だ。しかし、全員が気をつけてないと不意打ちを食らうので注意を怠ってはいけない。今回はカゲヨダカのノアと魔蝶のスカリアがいるので索敵は少し楽だ。
ゴーレムに関しては倒す方法が、ヴィズの正拳突きとフェリエの威力特化した魔法しかなかった。紗霧の刀は通らないし、ムールとカズラ君は補助メインのためダメージは控えめなため無理だった。てなわけで今回も無視することになった。あちらから攻撃はしてこないからな。
飛竜を倒せるので前回よりも早く底に到達した。ようやくドラゴンケイブ上層に到着である。
一度魔力を回復させて準備を整える。使う必要が無くて使ってこなかった〈魔法矢〉を使うときが来るのかもしれない。
他の面々も温存していた大技を使うみたいだ。色々と準備している。
準備が終わったらフラガラハの元へと向かう。
『レイドボス:フラガラハ との戦闘を開始します。』
〈妖術:分身〉
〈魂力付加〉
ムールが3人のムールを生み出し、カズラ君が溜めておいた魂を全員に纏わせる。
〈妖術:分身〉は自分の分身を生み出すアーツであり、全員分の操作をしないといけないため頭がパニックにならない限界である3人だけ出しているらしい。
〈魂力付加〉は死体から取り出した魂をプレイヤーに付加して全能力を引き上げるアーツである。魂のストックが6までなので、全ての魂を消費したことになる。
「一旦様子見よ。ムールは分身で惹きつけつつ観察。私はその援護。シンも手伝ってあげて。カズラ君はあれの準備ね。ヴィズと紗霧はカズラ君の護衛をお願い。」
「「「「「了解!」」」」」
IGL(つまり司令塔)はフェリエに任せた。彼女の指示の上手さはゲーム業界では有名だ。
ムールは幻を動かしてフラガラハを撹乱する。俺も幻と共に弓でヘイトを買う。いわゆる回避盾という奴だ。当たっても問題ない幻と当たらない人間の共闘である。しかし、フラガラハに当たらなくても切り傷を負う。この謎現象をどうにかしないと死んでしまう。幸い〈魂力付加〉でダメージを抑え、フェリエの回復魔法とポーションによる回復で耐えることは出来る。
その間にカズラ君は陣を地面に描き始める。描いている陣は魔法陣ではなく、召喚陣である。死霊術は魂を扱う他に死霊を召喚できる。
フェリエも回復魔法を使いながら、別の魔法陣を展開していってるようだ。基本の魔法は一つの円なのだが、今見ただけでも3つの円が重なっている。徐々に増やしていくことで強力な魔法が完成するようだ。
ムールも幻を操作してやられたら出しているが、何やら歩き回っている。何してるんだろう。
しかし、フラガラハの攻撃を避け続けるのも楽ではない。エルローンまでとはいかないが、それなりに素速いのだ。早くして戴けるとありがたい。
「なるほどな。だいたい分かったぞ。」
「ムール、どんな感じ?」
「鎌鼬の元ネタは知ってるだろ?」
「急に切り傷が出来る現象ね。小さい砂粒が風に乗って肌を切るとか、つむじ風などで出来た真空などで肌が裂けるとか色んな説があるわね。」
ちょっと待て。出来るだけ早く話を終わらせてくれ。俺がバテる。
「そう。それで今回は多分後者だ。」
「つまり風魔法?」
「いや、風魔法ならうっすら見えるはず。」
「つまり?」
「有力なのは空間を直接真空にする魔法だな。もしくは高速移動によって真空が作られている。一応見えない風魔法っていう説もある。」
「いずれにしても未知の能力で真空を生み出してると。」
「あぁ。それで強い空気の流れが肌を切っているんだ。」
「なぁ、そろそろ疲れてきたんだけど。」
「あ、シン。ごめんなさい。フォーメーションを変えるわ。カズラ君は準備出来てる?」
「大丈夫だよ。」
「なら回避を止めて受け止める形にシフトするわ。ヴィズと紗霧が前で受け止めて、ムールが動きを止める。そこに私が最大火力を叩き込むわ。カズラ君とシンはどうなるか分からないから臨機応変に頼むわ。」
俺は一旦引いてヴィズと紗霧とスイッチする。
「任せたぞ。」
「大丈夫よ。」
「ええ。問題ないです。」
二人は頼もしいな。
ムールの幻はもうお役御免なので消される。
カズラ君は召喚陣を起動させる。
〈死霊召喚:下級死霊〉
6つの召喚陣からそれぞれ下級死霊が召喚される。下級死霊は一言で言うと紫の人魂で、カズラ君の周りをグルグル回っている。ぱっと見だと魔王みたいなエフェクトを纏っているようなカズラ君だが、なんだか楽しそうなので何も言わないでおこう。
後は作戦通りに動くだけだ。




