1-23 トップランカーとの戦い 後編
危ないなぁ。少し横にずれていたおかげで命中は避けられた。
今のは貫通スナイパーと言われる跳弾スナイパーの対となる武器カスタムで、湧いて直ぐに撃ち抜く初見殺し技の一つである。
ファーストショットと呼ばれるこの技は、湧いた瞬間にマップを確認して相手の湧く位置に正確に狙いを合わせるという早技が必要となる。
しかし、全100あるマップを全て把握していれば出来る人は多いので対策はかなりの確率でされており、貫通スナイパーはファーストショット以外では戦いにくいので、大会などでは使われない。
勿論、日本一位が対策出来てない訳が無いので、腕が鈍ってないか確かめに来たのだろう。
恐らく今のはcanonだ。canonは世界一のプレイヤーでありながら、世界一のトリックショットの使い手である。
「散開するぞ。」
「了解。」
二手に別れて敵の位置を探る。おそらくcanonは狙撃ポジションについてroxyが索敵役のはずだ。今回は工場という部屋が多く広めのマップなのでお互いにゆっくりと索敵をするはずだ。
「roxyを見つけたわ。中央1階よ。」
「了解。もうすぐ準備が終わるから待機で。」
vizyが索敵している間に俺は至る所で引き金を引いていた。
俺のキャラはタイマー。引き金を引いてから指定した時間後にその場所から弾が飛んでいくキャラである。武器は威力最大の拳銃。当たれば必殺であるが、連射性が低く正面から戦える武器ではない。
「roxyは動かないわね。罠かしら?」
「canonの居場所の見当はついてる。7秒で行けるぞ。」
「分かった。ぶちかましてくるわ。」
vizyはきっかり7秒後に飛び出す。武器はナイフ、だが今回は不意打ちの出来る相手ではない。手を前にかざし、スキルを発動する。
vizyのキャラはインパクト。手から衝撃波を出すことが出来る。衝撃波はプレイヤーだけでなく銃弾もはじくことが出来て初心者にも扱いやすい。
roxyは軽く飛ばされる。
体勢は保っているが、そこはもう『鳥かご』の中だ。
タイマーで設置しておいた弾が起動して壁や天井から必殺の弾が降り注ぐ。しかし当たる弾道ではない。いや、世界一位には当たらない弾道である。しかし、動きが制限された状態をvizyがナイフで仕留める。
倒れる寸前、roxyは銃、スナイパーライフルを取り出してvizyとは反対向きに撃つ。
一方、俺ことshinは敵陣に向かっていた。canonが得意としている狙撃ポジション、それが湧いた場所から敵陣の反対側に進んだ場所である。敵陣から最も遠い場所であるため、canonならばたどり着くまでに確実に撃ち抜ける。そういう場所だ。
しかし、途中で後ろから撃ち抜かれる。
vizyがroxyを仕留めた瞬間、背中から撃ち抜かれる。そして後ろに立っていたのは、roxy。
決着のエフェクトと共にロビーに戻ってくる。リザルトを見て俺は察する。
「マスカレードだったか。」
「あなた達もまだまだね。」
「くぅ!悔しい。」
マスカレードは他の3人の誰かに変装するキャラであり、canonがroxyに変装して囮をしていたのだ。そしてcanonを狙う俺の動きを予測して貫通スナイパーで撃ち抜き、シークの透明化で近づいていたroxyがvizyを背後から撃った訳だ。
完全に動きを読まれていたわけだ。この読みが世界一位の一端であり、本質ともいえる。
「vizy、獲物を仕留めた瞬間が一番油断するのよ。気をつけなさい。」
「やられたわ。さすがね。」
「あぁ、完敗だな。」
「俺が死ぬ気は無かったんだけどね。まさか『鳥かご』なんてしてるとは思わなかったよ。」
「一矢は報えたみたいで良かったよ。」
「あぁ、またやろうな。」
二人は去っていった。
「あの二人に完勝出来る気がしないわ。」
「読みに関しては俺ら弱いからなぁ。」
「そうね。なんだかUNOのイベントも心配になってきたわ。」
「そうだな。まぁメンバーに読みが得意な人いるから大丈夫だろ?」
「え?誰よ?」
「フェリエさん。」
「そっちね。まぁそっちもだけどもう一人の方がヤバいんじゃない?」
「ん?もう一人?」
「あー、気づいてないのね。なら教えないでおくわ。多分イベントで分かるでしょ。」
フェリエさんじゃないって、ムールとカズラ君と紗霧さんの中に読みが強い人がいるのか?むー、分からん。まぁいずれ分かるでしょ。
今日一日はvizyと遊んでいて、気付けば夜だった。というかもう明日はフラガラハ討伐の日じゃないか!
「というわけだ。そろそろ帰れよ。」
「えー。ちょっとくらい良いじゃん。泊まってって良い?」
「ダメに決まってるだろ。良いから帰れって。」
「分かりましたよ。…また来るからね!バイバーイ!」
なんだか騒がしい一日だった気がする。
次話からはフラガラハ討伐編に戻ります。




