1-19 猿狩り
ネルリスに来たのは単にお買い物の為だけではない。大事な用がもう一つある。
というわけでヴィズと連絡をとる。
「ヴィズ。着いたぞ。店の前だ。」
「はーい。今行きます。」
待つこと数分。
「お待たせ。待った?」
「今来たとこ。」
「そんなバレバレの嘘言われても…。」
「いやだって、枕詞みたいなもんだろ?」
「そうだけど違うね。まぁ良いよ。早く行くよ。」
「結局どこに行くんだ?」
そう。もう一つの用とはヴィズに攻略を誘われたのだ。特に断る意味もないのでそれに乗ったわけだ。
「南方第四の街、ランゲルだよ。」
「何かあるのか?」
「特に何も無いけどね。強いて言うなら海と繋がっている。」
海か。そう言えば見てなかったな。世界が広がるな。
「エリアはどうなってる?」
「簡単に言うと山だね。シーガイとカンサルの間の山岳よりは緩やかで森もあるよ。」
「もう行ったのか?」
「聞いただけだよ。入るのは初めてだね。」
「なるほどね。じゃあ行くか。」
「そうだね。」
ネルリスの南門を出て山道へと向かう。ネルリスは多少の起伏はあるものの、ほぼ平地の真ん中に位置しているため、山までは幾らか距離があった。
スライムやウルフも出てくるが俺は勿論ヴィズの敵ではない。
ヴィズの武器は素手だ。格闘家と前に言っていたからな。
ヴィズは近接戦闘を得意としている。それゆえ銃メインのバトルロイヤルでさえナイファーをしていた変わり者である。機動力だけで銃相手に突っ込むのは見ていて爽快である。危なっかしいのでハラハラもするが。
1対1の近接戦闘に関してはトップクラスの腕前の持ち主である。良い戦いになるのはケンくらいだろうか。少なくとも現在UNOをやってるプレイヤーの中だとケンだけだな。
山道に入ると木に日差しが遮られる。昼頃なので影は小さいが、どうやら暗い場所に入ると影魔法の影の消費が少なくなるようだ。洞窟内にいたときは夕方で影がそもそも大きかったので気づかなかったけど。
それでも木漏れ日があるため無尽蔵に使える訳ではなかったが、洞窟や迷宮、夜には消費はほぼなくなるかもしれない。MP消費があるので結局無限には使えないのだが。
そしてMPが100から120に増えていることに気付いた。魔法や錬金を使ってきたからだろう。このゲームはステータスにポイントを振るといったことが出来ないため、スキルの補正でステータスを伸ばすことになる。そして熟練度によりスキルの補正値が上昇したのだろう。
山のモンスターは控えめに言って厄介だった。
スネーク・センチピード・ホーネット、つまり蛇・ムカデ・蜂だが、どいつも毒を持っており不意打ちで襲ってくるため気を張っていないとすぐに毒状態になってしまう。
毒レベルが1だったためすぐに治ってポーションで回復出来るが、連続で噛まれるとレベルが2に上昇して命の危険を感じる程だった。毒は重ね掛けで強化されるのは良い発見だったけど。
毒持ちモンスターは総じてHPが低く簡単に倒すことが出来たが、ドロップもそこまで良さそうな訳でもなく単にウザい敵だ。
毒に苦しめられる中、俺たちは数々の飛んでくる石や木の実を避けていた。
投げてくる敵はクライムモンキー。見た目は普通の猿だが、さるかに合戦のカニ役は一生やりたくないな、と思うほど投げつけてくる。
全部で4体。連携をとって木々を飛び回りながら取り囲んでくる。
「鬱陶しいわね。下りてきて戦いなさいよ。」
「そうしてくれたら苦労はないさ。」
そう言いながら弓を放つ。矢がクライムモンキーに届く前にクライムモンキーは別の木に移っている。
ヴィズは遠距離攻撃の手段を持たないようで飛んでくる物を捌き続けているだけだ。
ノアは危ないので使役の指輪に入ってもらってる。使役の指輪は先ほどの店で買った一体だけ使役したモンスターをしまえる道具だ。
「埒があかないわね。シン!」
ヴィズは一本の木の前に立って構えをとる。それ本当に成功するのか。まぁ手伝ってやるか。
俺は一匹のクライムモンキーに矢を放ち、続けて5本の矢を放つ。
〈速射〉
一本目は躱されてクライムモンキーは別の木に移る。
そこに飛んでいくのは2本目。勢いがついているためクライムモンキーは次の木へ続けて移る。
しかしそれはヴィズが構えている木である。
〈溜め〉
〈正拳突き〉
〈溜め〉は動きを止めて次の技の威力を上げるアーツ、〈正拳突き〉は現時点でのヴィズの最大火力の格闘アーツである。
ヴィズの最強の一撃を受けた木は幹を大きく削り取られ、倒れ始める。
振動によりクライムモンキーは動きを止め、その隙にヴィズは傾いた木を駆け上りとどめを刺す。
「シン!後はよろしく!」
「もう終わっている。」
ヴィズの衝撃に驚いた他のクライムモンキーはヴィズとは逆側に飛び出すが、そこに残りの3本の矢が突き刺さる。空中で眉間を抜かれたクライムモンキーは無残に光になって消える。
「流石ね。」
「3匹の方はまぐれだけどね。」
「またまたぁ。全部眉間だけど?」
「逃げるかどうかは賭けだったよ。」
「そういうことにしておくわ。さて、そろそろ街が見えてくるわよ。」
山に囲まれた入江に作られた街、ランゲルに到着した。