1-8 研究所攻略 前編
今、俺は見慣れぬ建物の中にいます。そしてアンデッドと戦闘を繰り返しています。
何故こうなった……時は1時間程前に遡る。
俺はムールと平原に来ていた。狙いは勿論錬金素材。採集をしつつ、現れたモンスターを倒す。ただそれだけだった。
採集が出来たのは「薬草」「香草」「毒草」「麻痺草」「魔力草」そして「雑草」。採集してるうちにスキル〈採集〉を手に入れたが、それはどうでも良い。
薬草と魔力草は単純にHPMP回復ポーションの材料である。毒草と麻痺草はその名の通り状態異常を引き起こす。そして香草は良い香を風に乗せていたが使い道は分からなかった。雑草も同様だ。
この平原に出現したモンスターはスライム、そしてウルフだ。スライムは粘性の丸っこい魔物であり、物理耐性を持っているがHPが低すぎるので一撃で倒すことが出来る。ウルフは3体程の群れで現れる厄介なモンスターである。まぁ油断しなければどうということはない。
平原を進んでいくと大きめの川にぶち当たった。渡ろうとしたが流れが速かったので一旦断念する。
なんとか渡る方法を模索していると水流に足をとられる!こういうときは焦ってはいけない。流れに身を任せ、落ち着くのを待つのだ。内心滅茶苦茶焦ってるけどな!ゲーム人生で川に流されるのは初体験だよ。
少し待っていると川岸に流れ着いた。しかし渓谷になっているようで平原に戻るのは骨が折れそうだ。ていうかもう折れてそう。…一応大丈夫か。幸いダメージは少ししかくらっていない。とか考えてるとムールも流れてきた。
「ムールも流されたのか。」
「いや、こっちの方が楽だと思ってわざと流された。」
「無茶するねぇ。」
「だけど良いものあったぜ。」
ムールの向いてる方を見ると、石で出来た通路が崖の中へと続いている。帰り道の宛もないしとりあえず入ってみることにした。
『迷宮:アントリアの研究室 に入りました。』
「研究室なのか迷宮なのかはっきりしてくれよ。」
「まさかこんなところにもあるとはな。」
「何か知ってるのか?」
「北方面の3つ目の街が迷宮街って言って3つの迷宮の入口があるんだよ。」
「なるほど。どんな感じなんだ?」
「ドロップと宝箱は美味しいらしいぞ。でも敵が厄介らしい。」
「とりあえず進んで確かめるか。」
しばらく進んでいていくつか分かったことがある。まず、迷宮内はオートマッピングで通った道は記録されていった。道は幾重にも分岐していたが、いずれも宝箱等は見つけることが出来なかった。宝箱が存在しない迷宮なのだろうか。
そして一番厄介なのが出てくる敵が全てアンデッドということだ。生憎と効きやすいと言われる魔法をどちらも持っておらず、物理攻撃でゴリ押すしかなかった。出て来るのはゾンビとスケルトンであり、ゾンビには斬撃、スケルトンには打撃が有効打らしいので、ムールと分担して倒していった。しかし数が多く連携してくるので厄介この上ないのだ。
このアンデッド達は稀に魔石を落とした。ムール曰わくダンジョンモンスター限定のレアドロップだそうだ。100体ほどで2つ落としたのでかなり確率は絞られてるようだ。〈不幸な者〉がどちらに働いているか分からないが、いずれにしたって確率は相当低いだろう。
迷宮を進むこと3時間。ようやく雰囲気が変わってきた。全5階層だが道が多くて嫌になっちゃうね。
広めの部屋にでた。ボス戦のようだ。
「準備はいいか?」
「勿論だ。」
奥の扉から新たなアンデッドが現れる。HPが表示され名前も表示される。
『迷宮ボス:イリュージョンリッチ との戦闘を開始します。』
紺色のマントを羽織っており、フードの隙間から覗く顔はしっかりとした形を残しており、ぱっと見だと人間にも見えるだろう。しかし、周りを漂う黒いオーラが人でないことを示唆している。
イリュージョンリッチは呪文を唱え出す。対魔法職の基本は近接に持ち込むことと詠唱をさせないことだ。俺はダガーを1本投げて呪文を一旦止め、その隙にムールが接近する。
ムールが振った棒は空振りに終わる。どうやらこのリッチは素早いらしい。ムールの連撃は華麗に躱される。
俺はその間にダガーを拾い、ムールとスイッチして攻撃を繰り返す。
「これじゃあ埒があかないぞ!」
「そうだな。攻撃が当たらない。」
「どうするよ?」
そう。攻撃が当たらないのだ。"物理演算"の予測では当たっているはずなのに。
「ムール!おそらくギミックボスだ。当たらなくなるギミックがあるはずだ。」
「そう言うことか。なら多分幻術だな。イリュージョンリッチだし。」
「じゃあ本体を探してくれ。」
俺は呪文を唱えさせないために手を止めることが出来ない。ムールに探してもらうしかない。
ムールは注意深く観察を始める。数秒観察して何か分かったのか、ムールはリッチの背後に棒を振り抜く。それは鈍い音を放ち、俺が戦っていたリッチは消え、HPゲージがガクッと減る。ムールのそばに現れたリッチは倒れ込み消える。そして宝箱が現れた。
「どうやって位置が分かったんだ?」
「影だよ。黒いオーラで見えにくかったけど地面に影は映っていたんだ。」
「なるほどな。そう言うことだったのか。」
グサッ
刃物が体を貫く。突然のことに二人は反応出来なかった。




