きっかけ
よくある物語では、勇者(英雄)が魔王(悪役)を滅ぼし世界を救うものが一般的だろう。そうやって悪役はいつも英雄のだしにされる。鍛錬を重ねた勇者に容赦なく滅ぼされる。そして勇者の国の民は喜び、勇者を英雄と崇め語り継いでいく。なんの変哲もないハッピーエンドの材料にされる人生だ。
そんな世界おかしいではないか。なぜ生まれによってこんな差が生まれるのか。
魔王にだって人生はあるのに。
この物語は、「こんな世界変えてやる。」と意気込む魔王の物語だ。
真黒のような色の空に少し赤みがかかった不気味な空、鳴りやむことのない雷、それらを飲み込むような強い風、そこに佇むいかにもな雰囲気の城。俺の唯一の居場所だ。ここにはもちろん家族もいた。とても強く皆から慕われていた魔王の父、俺は見たことがないが美人と評判だった母、よくケンカをした姉、その他大勢の身内が暮らしていた。
やつが現れるまでは・・・
やつは目の前に現れ言った。「この世界を救いに来た」と。
訳が分からなかった。俺らが何をしたんだ。幸せに暮らしていただけなのに。初めはそう思っていたが、考えてみると思い当たる節はあった。ただ幸せに暮らしていたことがダメだったのだと気づいた。
人が暮らしていくためには衣食住が必要なことだろう。それと同じことが俺らにも必要だった。俺らの食料といえば人肉や木の実だった。それが原因だったのだろう。でもどうだろうか、人も同じく家畜の肉を食らう。それが人であるか豚であるかの違いだけだ。しかし、そんなこと考えても無駄だった。
俺の家族はその勇者を名乗る男に抵抗もむなしく滅ぼされた。
父は必死に家族を守った。しかしその父をやつは無残なまでに殺した。四肢を斬り、見せしめかのように目玉をくりぬいた。それを見ていた姉や数千もの身内は恐怖で体が震えなにもしないまま殺されていった。
はたから見たら虐殺だった。勇者も心なしか楽しんでいるように見えた。しかし、勇者である以上「奴は自国に帰れば英雄呼ばわりされるのだろうか。この光景を見て国民は笑顔で殺せというのだろうか。」そんなことを考えた。どうしようもない吐き気に襲われた。俺はそのまま陰に隠れ気を失った。
意識が戻り、目を開けるとそこは血の海だった。地獄だった。あたりは一面紅に染まり、俺以外の呼吸は聞こえない。一瞬のこと過ぎて涙も出ない。
夢だと思いたかった。しかし同時に俺は思った。「これが俺らのしてきたことの報いだ」と。
そして様々な感情が生まれた、この世界が憎い。家族が殺されたやるせない気持ち、自分の無力さ、命の尊さ。その中で俺は思った「こんな世界変えてやる」と。